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【小説】最近読んだミステリレビュー--『十戒』『私雨邸の殺人に関する各人の視点』『しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人』

 

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夕木春央『十戒』
とある島を訪れた9人だが、そのうちの1人が死体で発見される。「殺人犯が誰かを知ろうとしてはいけない」などの十の戒律が書かれた紙が残されており、もしも戒律を破ったら島中に仕掛けられた爆弾が爆発するという。謎解きは禁止され姿の見えない犯人の指示に従うしかない状況下での、緊張感あふれる3日間の様子が描かれる。昨年のヒット作『方舟』と共通する、ロジカル過ぎるがために現実味のない舞台設定が独特の空気感を作っていて、毎度ながら巧い。真犯人に関しては、『方舟』と比べると人間味があるが。

十戒

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渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』
崖崩れが起きて11名が取り残された屋敷の中で、資産家の老人が殺された。そんな一見すると定番のクローズド・サークルの模様が、主に3名(後半になると視点人物は増えていく)の視点によって多角的に語られる。ベタを逸脱しているのは、犯人は当然として探偵役が誰なのか解らない点で、人が死んでいるのにふわふわとしたまま話が進んでいく不思議な感覚がある。そんな中で、中盤に挟まれる「ここまでに全員が、一つづつ嘘をついている」という一文が効いているわけだが。余談だが、「普通、田中って名乗ります? 田中なんて名乗る人、偽名を使っているか、本名が田中のどちらかじゃないですか」(大意)というセリフが、じわじわと面白かった。

 

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早坂吝『しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人』
とある中年男が起こす一家殺害事件の凄惨な描写がたっぷりと続いた後、本編らしきものが急に始める。探偵の死宮遊歩が目を覚ますと、そこは入り組んだ迷路の中であった。同じ境遇の人物が自分を含めて7人おり、天井のスピーカーから「今日は皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいます」と、どこかで聞いたことの指示をされる。このデスゲームは何なのか、冒頭の一家殺人事件との関連はどこにあるのか。という感じなのだが、最後のどんでん返しだけのために、意図的に作られた「下手な話」を延々と極者に読ませる構造は、どこまで許容されるべきか。

 


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