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【邦画新作/ドキュメンタリー】『映画 ○月○日、区長になる女。』感想レビュー—ジャーナリズムでもプロモーションでもないこれは一体何なのか


監督:ペヤンヌマキ
配給:映画 ◯月◯日、区長になる女。製作委員会/上映時間:110分/公開:2024年1月2日

 

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映画は、朝のアパートらしき一室で眠っている猫から始まる。「杉並区長選挙に立候補した岸本聡子を追ったドキュメンタリー映画」との事前情報を持つ観客であれば、誰しもが岸本聡子の飼い猫だと思うだろう。だがこれは監督・ペヤンヌマキの飼い猫であり、ここは監督の自室なのである。猫に続き、ベランダで飼っている亀に餌をあげるペヤンヌマキ監督。この冒頭で、すでにこれが普通の政治ドキュメンタリーではないとの予感が生じる。なんなんだ、これは。

選挙戦の候補者に密着したドキュメンタリー映画には、想田和弘監督『選挙』大島新監督『香川1区』などがあるが、これらについては少なくとも撮影者の意識としてはジャーナリズムを標榜しているのであろう。想田監督は傍観者になりきることで選挙の歪さを表出させようとし、その目的は達せられていた。大島監督は密着する候補者(小川淳也)に近づきすぎており、対立候補からはプロモーションと揶揄されていた(そしてそれは間違いではない)。しかし、はなから敵とみなすことで、対立候補の重大な疑惑の一端を掴むのに成功しており、結果としてのジャーナリズムはゼロではない。

本作『映画 ○月○日、区長になる女。』の序盤は、ペヤンヌ監督(苗字と名前の区切りがわからないが、あってる?)の個人的な話が続く。阿佐ヶ谷の自宅が道路拡張計画により立ち退きされる予定だと知って驚いたペヤンヌ監督。調べてみると、どうも田中良区長(当時)が杉並区のあちこちに大きい道路を作ろうと強行しており、阿佐ヶ谷だけでなく西荻窪や高円寺でも反対運動が行われている。ちなみに、ボク個人も高円寺の民として北口商店街をぶっ潰すのは馬鹿げていると思うひとりなので、この推移は見守っている。

ペヤンヌ監督は路上で演説していた岸本聡子に声をかけて、そのまま意気投合する(テロップで説明される)。そして、区長選に立候補する予定の岸本聡子の密着ドキュメンタリーを撮影することになる。岸本の立候補までの経緯を少し詳しく説明すると、2022年1月に田中区政に反対する市民団体「住民思いの杉並区長をつくる会」が発足し、岸本に声がかけられたのは3月。その翌月に岸本はベルギーから杉並区に引っ越してくる。区長選挙は6月。映画は、主に4月から6月までの杉本を密着している。

注意:このあとの自由課金部分(払わなくてもOK)で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。まあ、選挙結果などは報道で周知のとおりですが。

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