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【小説】最近読んだミステリレビュー--『爆弾』『方舟』『名探偵のいけにえ』『名探偵に甘美なる死を』

 

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呉勝浩『爆弾』
酔っ払って些細な暴力事件を起こした冴えない見た目の中年男が、警察の取調室で爆弾テロの時間と場所を正確に予言する。そこから謎の男と警察との緊張の糸が張り詰めた知恵比べが始まると同時に、爆弾テロを阻止するべく東京中を駆け巡る警察官によるアクション活劇が並行する。その静と動が折り重なる果てに、東京にいる全ての人間を当事者に仕立て上げていく展開はスリリングであり、一級品のクライムサスペンスに仕上がっている。けしてヒーローに成り得ない、捻じれた鬱屈を抱えた数多の登場人物たちも、キャラクターが立っていて魅力的。

爆弾

爆弾

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夕木春央『方舟』
山奥にある謎の巨大な地下施設に9名の人間が閉じ込められ、誰か一人を犠牲にしないと出られないという絶体絶命の状況下で、なぜか殺人事件が連続する(犠牲者の候補を減らすのは自分の首を絞めているのと同じなのに…)。全ての謎解きが終わった後に不意打ちで訪れる衝撃的なラストの余韻が凄まじい。人間から感情を奪い論理だけで動かす本格ミステリなるジャンルが元来抱えている歪みが、新たなモンスターを産み出した。

方舟

方舟

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白井智之『名探偵のいけにえ -人民教会殺人事件-』
カルト教団によってガイアナに作られたコミューンを舞台に、連続殺人事件が巻き起こる。白井智之の露悪趣味が個人的には苦手であったが、『名探偵のはらわた』を経て、実際に起こった陰惨な事件をオモチャにして遊ぶ才能が本格的に開花したようだ。多層的に展開される怒濤の解決編は100ページを超えているのにあっという間に読んでしまうし、後日談によって更に物語は引っくり返る。ミステリとしての構成力は非常に高い。

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方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』
〈竜泉家の一族〉シリーズの第3作で、過去2作の主人公が共演する。最近めっきり多くなったVR空間を舞台にしたミステリだが、その中でもトップクラスであろう斬新過ぎる大ネタが炸裂する。ただ、その衝撃のあとに盛り沢山の要素を次から次へと付随させているため、やたらとこねくり回しているような印象は避けがたい。方丈貴恵作品が『本ミス』以外のランキングでなかなか上位に挙がらないのも、そのゴチャゴチャした感じが原因のような気がする。個人的には嫌いじゃないけど。

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