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【邦画】最近読んだ小説感想レビュー--『黒牢城』『同志少女よ、敵を撃て』『僕が答える君の謎解き2 その肩を抱く覚悟』

最近読んだ小説3作の短文レビューです。直接的に文中で結末には触れていませんが、ネタバレにはご注意ください。

 

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米澤穂信『黒牢城』

織田信長に謀反を起こして有岡城に立て籠もった荒木村重と、捕らえられ幽閉された黒田官兵衛が、城内で起こる奇妙な事件の真相を解いていく。季節ごとに起こる4つの事件にはいずれも未解決な謎が少しだけ残り、それらを最後に繋ぎ合わせることで各物語を貫く新たな信念が明かされ、さらにその先に露わになる真相によって小説全体が覆われる。かくも多層的に物語の構造は支配されており、実際の歴史上の出来事というお膳立ても相まって、読者は圧巻の読書体験を得ることになる。2021年末に、ミステリ系の年間ベスト4つで1位となった史上初の作品で、さらには直木賞も受賞。

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逢坂冬真『同志少女よ、敵を撃て』

第二次世界大戦時の独ソ戦を舞台に、女性だけで構成された狙撃隊の軌跡を辿る。小さな農村がドイツ軍に急襲されて住民が虐殺される冒頭から、凄惨を極めたスターリングラード戦など、歴史的事実を個人の物語に組み込むことでイデオロギー的な虚飾を剥ぐ狙いは充分に達成されている。さらには、戦時中は前線に置かれながら戦後の総括には都合が悪くなり忌避されてきた"女"たちの視点によって戦争神話の欺瞞は露わにされ、善悪の判断が無意味な先での死や生には虚無しか生まれないという点では上質のハードボイルドでもある。リアルタイムの世界情勢とも直結しているので、今読むべき作品であろう。

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神城境介『僕が答える君の謎解き2 その肩を抱く覚悟

真実は解るが理由を説明できない女子高校生と、その真相に至るための推理に腐心するクラスメイトの男子を主人公とした、学園ミステリ・シリーズの第2弾で、2つの中編で構成されている。特に第2部の臨海学校編での、クラスメイト全員が嘘をつくことによって発生した壮大な謎を順序立てて崩していく解決部分は、強大な敵との対決という構図により、実にスリリングで手に汗握る。甘酸っぱい青春モノのようでいて、"教室という名の監獄"の隠れた陰湿さを打ち砕かんとする主人公の行為には、ヒリヒリとした感触が残る。ライトノベルのレーベルでありながら、2021年度の「本格ミステリ・ベスト」で11位にランクインした。表紙のイラストで購入をためらうのはもったいない傑作。

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