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【邦画】『神回』感想レビュー—タイムリープのお約束を破壊した本作は、絶望的な現代日本社会を端的に露呈させている


監督&脚本:中村貴一朗
配給:東映ビデオ/上映時間:88分/公開:2023年7月21日
出演:青木柚、坂ノ上茜、新納慎也、桜まゆみ、岩永洋昭

 

 

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たまたまかもしれないが、それほど予算のかかっていない邦画で、タイムリープものの話題作が相次いでいる。『MONDAYS/このタイムリープ、上司に気づかせないと終わらない』は、ある小さなデザイン会社の社員が同じ1週間を繰り返す話で、『リバー、流れないでよ』は、ある旅館を舞台に従業員や宿泊客が同じ2分間を繰り返す話だ。このような「同じ時間を何度も繰り返す」系のタイムリープは、昔から幾度となく採用されてきたモチーフであるが、その魅力は何であろうか。

やはり第一に、タイムリープものは物語構造のフォーマットが確立されており、扱いやすいからであろう。主人公は繰り返す時間から抜け出そうと試行錯誤し、その過程で様々なアクションを取り入れることができる(死のうが誰かを殺そうがリセットされるので、何でもありだ)。そして、こうなった原因が何なのかとひたすら思考を巡らせて、ついにはタイムリープに陥った理由に辿り着く。その理由とは、「時を止めたい」「成長したくない」という、誰かしらの精神的な内面であることが常だ。

「成長したくない」という人間の内面と、「時間を繰り返す」という実際の物語が、直接イコールで結ばれる。さらには、過去の呪縛を振り切って成長しようとする決断が、タイムリープを抜け出そうとする行為に直結する。つまり、タイムリープを採用するだけで、「行動で心情を表す」という物語の基本構造が自動的に組み上がるのである。もちろん、そこから話を完成させるためには、多くのアイデアが必要になるが。ともあれ、『MONDAYS』も『リバー、〜』も、基本的には、このフォーマットを踏襲している。

※ 『リバー、〜』は、タイムリープの原因と主人公の「時を止めたい」という思いとは関係が無いが、時間を繰り返す中で主人公は未来へ進むための決断をしており、行動によって成長を描いている点ではフォーマットに沿っている。

中村喜一朗監督映画『神回』もまた、とある男子高校生が繰り返される時間の中に閉じ込められるタイムリープものなのだが、なんと古来から踏襲されているフォーマットを完全に破壊している。鑑賞直後は「え、それでいいの? 本当に?」と衝撃を受けたが、もしかしたらこちらの感覚のほうが古いままなのかもしれないと、改めて考えるようになった。何が衝撃であったか、ストーリーを追いながら説明してみる。

高校生の沖芝樹(演:青木柚)は、文化祭の打ち合わせのために夏休みの教室を訪れる。予定より早く着いたために机に突っ伏して寝ていると、同じく文化祭実行委員の加藤恵那(演:坂ノ上茜)に起こされる。この時、午後1時。そして打ち合わせが始まるが、1時5分になったところで樹は倒れる。そして気がつくと、樹は机に突っ伏しており、時刻は午後1時であった。

注意:このあとの自由課金部分(払わなくてもOK)で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

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