ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【TV評】『FNS27時間テレビ』—「身内ノリ」が不快なのではなく「身内ノリを押し付けてくる行為」が嫌だったのだ


千鳥・大悟 発言
「こっから、すいません。
こっから、悪ーい身内ノリです」

2023年7月23日 フジテレビ『FNS27時間テレビ』にて

 

 

スポンサードリンク
 

-----

4年ぶりに完全復活したフジテレビ『FNS27時間テレビ』において、『千鳥の鬼レンチャン』の人気企画「サビだけカラオケ」(有名曲のサビをひとつも音を外さずに歌い切り、10曲連続成功を目指す)のコーナー中での、千鳥・大悟の発言である。「サビだけカラオケ」挑戦の模様は既に収録され編集されており、千鳥とかまいたちは生放送のスタジオでそのVTRを鑑賞しガヤを入れるというスタイル。ところで、今回は深くは触れないが、昨今のバラエティ番組では「VTR」と「スタジオ」の主従関係が逆転しているな。「VTR」よりも、その映像を見てワイプからガヤを入れる「スタジオ」のほうがメインになっている。これは同じく千鳥による『相席食堂』の功績が大きいと思われる。

大悟の発言の前後を詳しく説明する。今回の「サビだけカラオケ」はタッグモードで、計6組12人が挑戦した。そのうち4組が終わり、残るは「ほいけんた&ほい航大」「徳永ゆうき&彩青」となった際、大悟は『鬼レンチャン』を見ていない人に向けて「この人たちに、謝っとかんと」と言い、以下のように発言が続いた。

千鳥・大悟「こっから、すいません。こっから、悪ーい身内ノリです」
千鳥・ノブ「『鬼レンチャン』の内輪ノリが始まりますけど、すみません」
かまいたち・山内「知らない人で成り立っている番組です」

事実、先ほど注釈なしに挙げた「ほいけんた&ほい航大」「徳永ゆうき&彩青」の名前をすんなりと受け入れられる人は、『鬼レンチャン』視聴者しかいない。いくら人気番組とはいえ、「我々の常識は世間の常識に決まっている」という往年のフジテレビらしい傲慢さがあるようにも感じる。だが、確かに今回の『FNS27時間テレビ』は身内ノリに溢れていたのだが、意外にも面白く見られたのである。その理由は何なのか。

先に結論を言ってしまえば、往年のフジテレビに辟易としていたのは身内ノリそのものではなく、「身内ノリを外野に押し付けてくる行為」だったからであろう。とんねるず的というか、受け手のことなんかお構いなく「ダーイシって面白いでしょ」と圧をかけてくる、あの感じ。今回に限っては、とんねるずが出てこなかったのは、本当に良かった。

今年の『FNS27時間テレビ』には、たしかに『鬼レンチャン』身内ノリが多く見受けられたが、ある一線が引かれていた。端的に言えば、身内ノリを身内だけで済ませていたのである。たとえば、『逃走中』『今夜はナゾトレ』など別番組にお邪魔する形の時は、メインパーソナリティの千鳥、かまいたち、ダイアンは参加するものの、ほいけんたや丘みどりをねじ込むようなことはしない。メインは3組とも場の空気に染まりながらも自己が出せる技量があるし、『鬼レンチャン』としての色は極力落としている。

一方で『鬼レンチャン』身内ノリが炸裂していたのが、日曜日の日中3時間に渡って放送されていた「FNS鬼レンチャン歌謡祭」である。ほいけんた、徳永ゆうき、丘みどり、BENIよよよちゃんなどなど、失礼ながらフジテレビが威信をかけた大舞台には似つかわしくない、一般的な知名度も決して高くない人たちが次々と登場し、笑い込みの歌唱パフォーマンスを繰り広げていた。それはたしかに身内ノリなのだが、そのノリをこちらに押し付けてこないので、全く不快に感じないのである。正直これには驚いた。

変なことをいっぱいしているのだが、その理由を一切説明しないため、「面白いでしょ」と圧をかけてくる感じにならない。なぜ木山裕策が細魚と呼ばれているのか、なぜりんごちゃんが坊主のカツラにサングラスという姿なのか、はまぐりあゆみとは誰なのか、『鬼レンチャン』視聴者以外には謎だらけだ。千鳥とかまいたちによるワイプからのガヤ(しかし歌っている最中にガヤが入るのも珍しい)によって多少の説明はされていたが、それでも情報量は圧倒的に不足している。

番組が身内ノリで完結しており、完全に閉じている。視聴者は、そんな閉じた世界を外からこっそりと見ている状態だ。で、意味が解らないがゆえに、逆に笑えたりする。これってもしかしたら、今のテレビにとって最良の構図ではないか。テレビ(地上波放送)が凋落した原因については、いろんな人がいろんな事を言っているわけだが、娯楽が細分化され無数の島宇宙となった現代では、閉じた世界の中でのわちゃわちゃとした身内ノリを垣間見せるほうが、現代社会の縮図として正しいのかもしれない。

そんな、こっそりと覗き見た知らない世界では、高橋真麻が安っぽいロボットの格好で『残酷の天使のテーゼ』を歌い、ササキオサム(MOON CHILD)が不自然な高音ボイスでDA PUMPを邪魔し、ほいけんたが「くるっくう」と叫ぶ。全く意味が解らないからこそ、その不条理に笑ってしまう。これこそが、テレビが進むべき正しい道ではないかと、真剣に思う。

スポンサードリンク
 

この続きはcodocで購入