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【邦画】『ミンナのウタ』感想レビュー—なぜ清水崇監督は「GENERATIONS」を主人公にしなかったのか


監督:清水崇/脚本:角田ルミ、清水崇
配給:松竹/上映時間: 102分/公開:2023年8月11日
出演:白濱亜嵐、片寄涼太、小森隼、佐野玲於、関口メンディー、中務裕太、数原龍友、早見あかり、マキタスポーツ

 

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LDH所属のダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS from EXILE TRIBE」のメンバー7人が本人役で出演しているホラー映画である。LDHが映画業界に積極的にコミットしており、それなりの成功を収めているの周知の事実だ。『HiGH&LOW』シリーズの独特の発展は、映画興行のスタイルに新たな道筋を見出しているわけだし。しかも配給会社まで立ち上げていて、なぜか芸人の永野が主演の映画『MANRIKI』を制作・配給したりしている。

本作『ミンナのウタ』は、まず第一に固定ファンに向けられた、人気の男性グループによるアイドル映画という位置付けでいいのだろう。こういうの、女性グループではよくあるが男性ではジャニーズ事務所の専売特許だったのだが、ついにLDHも参入してきたという流れか(「ハイロー」は、またちょっと特殊なので)。実は小規模な作品では他にも無数に存在するのだけれど、シネコンでガンガンかかるレベルの大作となると、現状において男性グループのアイドル映画はジャニーズ以外ではLDHしか無理かもしれない。

そして、女性グループの映画では定番のホラーというジャンルだが、意外とジャニーズは(グループ単位の映画では)積極的に手を出してこなかった。ちょっとジェンダー論になるが、女性の場合は日常生活でも恐怖を感じる瞬間がまだまだ多い現状、「恐怖に慄く」という表情や仕草を「素」と解釈されて、そこに愛玩的な弱さを感じるがゆえ、ファンへの需要があると思われる。だが、基本的には社会的強者である男性で、しかも筋肉隆々で地位もある人気の若者の場合、「恐怖に慄く」機会は普段そうない。関口メンディーに対して理不尽に怒鳴りつけたりわざとぶつかる人とか、いなさそうだし。

したがって本作の場合は、「GENERATIONS」のメンバーが「恐怖に慄く」という非日常な姿をファンに見せるのが主目的だろう。つまり、メインとなるアイドルが女性と男性では、どちらも「恐怖に慄く」表情を提供しても、観客の受け止め方が真逆となるわけだ。ただ、そのせいなのか、あるいはホラー映画の巨匠・清水崇監督のこだわりからなのか、本作をアイドル映画として捉えると、かなり歪な構造になっている。

まず異例なのが、実質的な主演が「GENERATIONS」の誰でもなくマキタスポーツなのである。映画の冒頭、「GENERATIONS」メンバーの小森隼が、ラジオ局の倉庫で35年前に送付されていた怪しげなカセットテープを手にする。翌日のダンスレッスンでは明らかに小森の様子がおかしく、その夜から消息が掴めなくなる。そこでマネージャーの角田凛(演:早見あかり)の依頼により、探偵の権田(演:マキタスポーツ)が小森を見つけるために捜査を始める。

で、なぜかこの権田のバックグラウンドが詳細に語られるのだ。権田は、探偵というより普段は週刊誌のゴシップを追うライターかカメラマンらしい。あまり家には帰らず妻からは電話口で愚痴を言われ、たまに帰宅したら玄関前で娘と知らない男がキスしているのを目撃するほど、家庭はうまくいっていない。さらに、「GENERATIONS」を全く知らないのはいいとして、人の名前を何度も呼び間違えるはLDHの経費でホテルのルームサービスを頼むは女性マネージャーにスケベ心を見せるは、まったく好感度の得られない無神経で嫌なオヤジとして描写される。

注意:このあとの自由課金部分(0円でも可)で終盤の展開とラストシーンに触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

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