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【邦画/アニメ】『SAND LAND』感想レビュー—鳥山明の無邪気な欲求は意図せずして疲弊した現実社会を露わにする


監督:横嶋俊久/原作:鳥山明
配給:東宝/上映時間: 106分/公開:2023年8月18日
出演:田村睦心、山路和弘、チョー、鶴岡聡、飛田展男、大塚明夫、茶風林、杉田智和、遊佐浩二、吉野裕行、こばたけまさふみ

 

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映画館に入場して驚いたのだが、50名程度いる観客の半数以上が中年男性の1人客であった。公開初日の新宿ピカデリーの昼の回である。夏休み真っ盛りだというのに、子供は数人しかおらず、これは一体どうしたことか。この時期の東京都心は子供が少ないのではという可能性もよぎったが、それでは同じ新宿の映画館で『クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』に大量の子供が押しかけている説明がつかない。

映画館に来ていたメインの客層は、本作『SAND LAND』の原作者でもある鳥山明『ドラゴンボール』の大ブームが子供の頃に直撃した世代である。原作漫画が発表されたのは2000年で、それよりは少し新しいのだが、ともかく懐かしさを求めて中年男性が映画館に集結してきた感じか。そして、そんな童心に帰りたい彼らの欲求に完璧に答えている作品であった。

アニメそれも特に劇場版アニメに対して、社会的メッセージを求められるようになって久しい。いや、昔からその傾向はあるのだが、宮崎駿押井守など元から作家性の強い監督の作品のみならず、子供が楽しむことを第一の目的としているはずの『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』『プリキュア』シリーズですら、内包されている社会的メッセージの如何によって評価が下される。もちろん、主張が正しいか間違っているかは重要だが、それだけで子供向けアニメの価値の全てを判断するのは、さすがに作品の主目的からはズレている。

映画『SAND LAND』には、原恵一以降の『クレしん』的な大それた社会的メッセージは含まれていない。たしかに勧善懲悪という有無を言わせぬ”正しい”話なのだが、これは子供向けゆえにベタな展開をなぞることで解りやすくしているからであろう。ただ、そんな純然たるエンタメ作品が、昨今の「アニメには社会的メッセージが必要なのだ」という風潮の中に放り込まれているため、鳥山明の持つ根源的な欲求がより鮮明にもなっている。

物語の構造は、非常に単純だ。水不足に悩む砂漠の世界「サンドランド」では、国王だけがどこからか水を手に入れており、高い値段で国民に売りつけている。そんな折、小さな村で保安官をしている老人・ラオ(声:山路和弘)は、南の方向に「幻の泉」があるのではないかと考え、人間とは関わらずに独自のコミュニティを築いている悪魔たちの元を訪れて協力を頼む。そして魔王サタンの息子・ベルゼブブ(声:田村睦心)とそのお目付け役の魔物・シーフ(声:チョー)とともに、泉を探す旅に出る。

注意:このあとの自由課金部分(0円でも可)で中盤以降の展開に軽く触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

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