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【小説】最近読んだミステリレビュー--『君のクイズ』『栞と嘘の季節』『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』

 

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小川哲『君のクイズ』
若いクイズプレイヤーを主人公として、クイズ番組の決勝で問題文が読まれる前に正解を出した対戦相手を調べていくうちに、自分自身のクイズ人生とも自然と向き合うようになる。クイズ番組の答えと解答者の半生が直結していく過程は、どうしたって映画『スラムドッグ$ミリオネア』を想起してしまうが、たとえば番組プロデューサーの浅薄な狙いを垣間見せるなどにより、意図的に物語を矮小化させている。自分にとってはアイデンティティそのもののような大切な居場所が、他者にとっては全く別の捉え方をされていたとしても、それでもなお居場所を信じることができるのか。その問いはクイズの世界に身を置くものに限らず、誰にとっても通じる普遍的なものであろう。

君のクイズ

君のクイズ

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米澤穂信『栞と嘘の季節』
高校の図書室に返却された本の間にトリカブトの押し花が挟まれた栞が見つかるところから始まる青春ミステリ。図書委員の男子コンビが栞の謎を追うに連れて、少しづつ話のスケールは大きくなり、学校全体を巻き込んだ騒動が起こるに至る。思春期の女性が防御手段を持たざるを得ない現実を、切迫感を持たせたうえで看過しており、ライトな物語の中に現代若者批評を取り込むのに成功している。また、著者の得意技である大袈裟にならない中での秀逸なキャラクター造形は、今回も光る。

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連城三紀彦『黒真珠 恋愛推理レアコレクション』
没後10年となる著者の、これまで単著未収録だった作品を集めた短編集。ほとんどの作品において、壮年期の女性が欲するアンモラルな性の衝動(不倫であったり、近親相姦であったり)が、あくまで輪郭をなぞるかのように淡々と描写されている。かつて「全ての作品の主人公のモデルは母親である」と発言している著者の一貫した衝動性には、ただただ圧倒。ミステリ要素については、自分自身の醜悪さや情けなさを客観的に見つめ直さざるを得なくなるためのギミックとして「立場の反転」が何度も効果的に用いられる。通常、単著未収録なのは質が低いからという理由が多分にあるはずなのに、この手の作品集で駄作がひとつも無いのは驚異的。

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