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【邦画】『658km、陽子の旅』感想レビュー—日本型ロードムービーの鍵はサービスエリアにあり


監督:熊切和嘉/脚本:室井孝介、浪子想/原案:室井孝介
配給:カルチュア・パブリッシャーズ/上映時間:113分/公開:2023年7月28日
出演:菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、仁村紗和、篠原篤、吉澤健、風吹ジュン、オダギリジョー

 

 

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日本を舞台にしたロードムービーは難しい。その理由は端的に、そんなに広くない島国であることと、人が住んでいる場所に関しては道路交通網が津々浦々まで整備されていることにある。かつてドイツ映画『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』の舞台を日本に変更した『ヘブンズ・ドア』という邦画があったが、「難病の人が海を見に行く」という話なので、いやそれ日本なら割と簡単に行けるだろって思った。

ともかく日本の場合、車を確保して高速道路に乗ってしまえば、大抵の土地には1日あれば難なく行けてしまう。そのため、途方もない長旅の途中で様々な土地に立ち寄り、異なる文化や人物と交流することで主人公の内面も少しづつ変化していく、『イージー・ライダー』のようなロードムービーの基本構造が成立しづらいのだ。

もちろん邦画においては、その弱点を解決する方策がいくつも練られている。本作『658km、陽子の旅』の場合は、「車の確保」を重要なミッションにしており、そのため移動中の車内よりもヒッチハイクをするサービスエリアでのシーンにより重要度がおかれている。ちなみに、走行する車内のシーンはスタジオで撮影して車窓を合成していたらしい。個人的には、役者本人が運転しないロードムービーには説得力が欠けるという意見だが、本作の場合は主題が走行シーンにはないため、これでも構わない。

42歳の陽子(演:菊地凛子)は、一人暮らしのアパートで家電メーカーのカスタマーサポートの在宅ワークをしている。描写からするにギリギリの生計は立てられているらしく、レトルトのイカ墨パスタを頬張って配信ドラマを見て楽しむ程度には収入があるが、宅配便の受け取りでも口籠ってしまうほど普段は他人とは会話しておらず、社会から断絶した状態のようだ。スマホが壊れた次の日の早朝、ドアを勢いよく叩かれる。訪ねてきたのは従兄の茂(演:竹原ピストル)で、故郷・青森にいる陽子の父が亡くなったと知らされる。スマホが壊れていたので連絡がつかず。アパートまで訪ねてきたのだ。

 

注意:このあとの自由課金部分(払わなくてもOK)で中盤以降の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

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