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【小説】最近読んだミステリレビュー--『ドールハウスの惨劇』『まだ出会っていないあなたへ』『火蛾』

 

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遠坂八重『ドールハウスの惨劇』
なかなか最初の事件が起こらず、度を越えて過激なために戯画的ですらある「毒親」に高校生姉妹が虐げられる描写が続く前半は、かなりの嫌悪感をもたらす。一応はラストの種明かしによって物語の反転を狙っているが、それにより毒親が免罪されるわけではなく、堆く積もった嫌悪感はそのまま残る。この後味の悪い余韻こそが、本作の狙いなのかもしれない。ただ、その一方では男子高校生バディによる学園探偵モノとしての軽妙さも随所に挟み込まれるため、その振れ幅の大きさを許容できるかが、本作を楽しめるかどうかのポイントになっている。

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柾木政宗『まだ出会っていないあなたへ』
4つの別個の物語が並行して語られる構成で、思わせぶりなタイトルもあり、これらの話が最後に繋がることは誰しもが予測できる。ただその繋がりというのが、「この人とこの人が同一人物でした」程度のもので、それによって物語の意味が書き換えられるようなカタルシスは発生しない。物語を繋げる任を脇役にさせているところに意外性はあるものの、そのせいでさらに物語同士の関係性は希薄な印象を与えてしまっている。はっきり言ってしまえば、物語を繋げる仕掛けそのものが余計なのである。個々の物語は、「世界はそこまで邪悪ではない」というスッキリした読後感を用意してくれている。

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古泉迦十『火蛾』
かつて本格ミステリ界に衝撃を与えたものの著者がこの1作限りで表舞台から消えていたために幻の名作扱いされていた本書が、23年の時を経て初めて文庫化したので再読。12世紀の中東を舞台に、影でのみ現れるイスラム教の導師と4人の修行者しかいない山で、不可解な連続殺人が起こる。各人の宗教観の違いを手がかりに真実は明らかにされるが、そこに「自分の信じているものが真実である」という絶対条件が貫かれることで、物語は何重にも折り重なって増幅する。文字すらも偶像であるから禁止するべきなど、(あくまで一般的な日本人の感覚からすれば)特異な宗教観によって世界が大きくうねる様にトリップ性があり酔いしれるが、しかし他者からすれば理解し難い「真実」は誰しもが持っており、であれば本作のような幻惑の世界に迷い込む可能性は充分にあるのであろう。ちなみに、文庫の著者紹介に《次回作『崑崙奴』が出版予定》とあり、期待大。

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