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【邦画】最近観た邦画感想レビュー--『犬王』『ハケンアニメ!』『辻占恋慕』

最近観た邦画3作のレビューです。直接的に文中で結末には触れていませんが、ネタバレにはご注意ください。

 

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『犬王』
監督:湯浅政明/脚本:野木亜紀子/原作:古川日出男
配給:アニプレックス、アスミック・エース/上映時間:97分/公開:2022年5月28日
出演:アヴちゃん、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊、片山九郎右衛門、谷本健吾、坂口貴信、川口晃平、石田剛太、中川晴樹、本多力、酒井善史、土佐和成

湯浅政明監督が常に探求している、物体をゲル状であるかのようにグニャグニャと動かすことによってもたらされるアニメでしか成しえない映像の快楽が、能という題材と合わさって熱烈な化学反応を起こしている怪作。また、霊や呪いが当たり前に存在する中世日本の価値観を、アニメの特性を利用して現代の観客に自然に伝えるのにも成功している(実写の時代劇では、この辺りがネックとなりがちである)。その一方で、これはおそらく原作の古川日出男の功績が大きいのであろうが、史料の少ない実在の人物を中心に取り上げ、そこに有名な歴史上の人物とリンクさせた悲壮な物語を積み上げることでどうしようもない儚さや虚しさを産み出す、歴史物における定番の語り口もスマートにこなしている。
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『ハケンアニメ!』
監督:吉野耕平/脚本:政池洋佑/原作:辻村深月
配給:東映/上映時間:128分/公開:2022年5月20日
出演:吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、前野朋哉、矢柴俊博、新谷真弓、松角洋平、水間ロン、前原滉、みのすけ、古舘寛治、徳井優、六角精児

アニメの製作現場を題材として、誰もが自身の経験と照らし合わせてしまうような共感性の高い"モノづくり"の達成感を与えてくる。そのためには、たとえば勝敗をテレビの視聴率で測るなど、アニメ業界のリアリティを豪快に無視することさえ厭わない(目的がお仕事紹介では無いのだから、それでいい)。業界の描写はあくまで個性的な装飾に留めて、オーソドックスな物語の振幅によって観客の感情を揺り動かす手堅い一本。もっとも、実社会では古臭く有害とされ始めている精神論が、フィクションでは感動を呼び起こす安定した装置として機能し続けることには、一抹の不安も感じる。功罪あわせて、『前田建設ファンタジー営業部』と同じジャンルの作品。
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『辻占恋慕』
監督&脚本&原作:大野大輔
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/上映時間:111分/公開:2022年5月21日
出演:早織、大野大輔、濱正悟、加藤玲奈、川上なな実、ひらく、福永朱梨、小竹原晋、堀田眞三

対バンライブで偶然的に交流を持った30歳の男女が、やがて恋人同士かつ女性シンガーソングライターとマネージャーの男という関係になる。そのような一組の男女の出会いから別れを追う中で、奇妙なおかしさの漂う会話劇が何度も繰り広げられる。それまでの鬱憤が爆発して思いの丈を喚き散らすクライマックスですら、間違っているし哀れなのは主人公のほうだという捻じれた状況が、単純なカタルシスを否定してきて、一筋縄ではいかない。大野監督の過去作である『ウルフなシッシー』『アストラル・アブノーマル鈴木さん』と同様、達観しているかのように冷静を装って喋っている人物を客観的に引いた位置から格好悪いものとして見せることで、逆に愛着を生じさせる手腕は並外れている。
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