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【小説】最近読んだミステリレビュー--『骨灰』『化石少女と7つの冒険』『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』

 

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冲方丁『骨灰』

大手デベロッパーのIR部に所属する主人公の男が、自社の手がける建築中の高層ビルの地下で、手錠で繋がれた男を発見する。そこから身の周りでおかしなことが起こるようになり、自身もおかしな行動を取るようになっていく。呪われた男の一人称視点ということもあり、人智を超えた強大な存在に成す術もなく、異常な行動を繰り返し暴走する様を淡々と追わせられるのは、なかなかにスリリングであり一気に読ませる。呪いに対する唯一の抵抗策が「血の繋がり」だったり、ぐちゃぐちゃな状況を権力の介入によって力技で収束させる終わり方には安直さも感じるが、その辺はエンタメとしての定型に沿ったということか。都市開発と土着信仰の折り合いという宮崎駿のアニメみたいな構図から説教臭さを抜き取ったかのような、現代的なホラーにまとめ上げている。

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麻耶雄嵩『化石少女と7つの冒険』
シリーズ2作目。殺人事件が頻発する高校を舞台に、化石趣味のお嬢様高校生が披露する(実は正しい)推理に対し、お目付役の後輩男子が偽の情報を与えるなどして、間違っていると思い込ませるのが基本的な構図。人が殺される度に真実を捻じ曲げ冤罪を産むアンモラルな行為の繰り返しにより、業は蓄積され、個々の関係性は歪に変形し、ついには後戻りのできない最悪の状況となる。こうしてラストに用意された静かな絶望感は、本格ミステリというジャンルが元来持つ欺瞞と繋がっているのであろう。なお、前作『化石少女』のネタバレが全開なので、先に読んだほうがいいです。

↓ 前作

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新川帆立『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』
動物福祉法により動物にも人間と同等の権利が与えられた「礼和」など、架空の法律が施行された6つの「レイワ」を舞台にした短編集。例えば個人による酒造が認められた「麗和」では、酒好きな義理の父との関係に苦労する酒造下手な主婦を描くなど、アイテムを取り替えただけでストーリーやテーマはありがちなものばかりであり、わざわざSFにしている意味が希薄。架空世界を構築するための細部はあっさりしつつも丁寧だが、内容に深みは少なく、その点では物足りない。

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