【邦画】『おとななじみ』ネタバレあり感想レビュー--両片想いモノは構造的に主人公の気持ちに寄り添うことができない

監督：高橋洋人／脚本：吉田恵里香／原作：中原アヤ
配給：東映／上映時間：113分／公開：2023年5月12日
出演：井上瑞稀、久間田琳加、萩原利久、浅川梨奈、岡本夏美、菊池亜希子、宍戸美和公、横澤夏子、村上健志、アンミカ、松金よね子、二階堂高嗣

注意：文中で終盤の内容に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

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映画が始まってすぐ、住宅地の街並みを捉えたファーストショットの段階で「うわっ」と思ったのだが、これ色調補正をやり過ぎている。かなり黄色が強い。しかも、コメディタッチの場合は彩度を上げてヴィヴィッドにすることが多いのだが、なぜか本作は逆に彩度を落としている。なので画面全体が黄色っぽくくすんでいるのだ。人物の肌も黄土色がかっているので、血色が悪いみたいでレバーを食べさせたくなってくる。なんでこんなことしてるんだ？

おとななじみ 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

作者:中原アヤ
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弁当屋で働く24歳の加賀谷楓（演：久間田琳加）は、4歳の時から家が隣同士の幼馴染・青山春（演：井上瑞稀）に、ずっと片思いしている。現在はアパートで一人暮らしをしているが、それでも隣の部屋には春が住んでおり、毎朝起こしに行ったり部屋を掃除したりとお節介を焼き、春からは「おかんみたい」と言われている。

一方の春もまた楓に片思いをしているが、高校生の時にした楓の母親（現在は故人）との約束「楓のナイト（騎士）になる」を忠実に守るべく、恋心を抱きそうになっては無理やり思いを振り払っている。春は純粋なバカなので、ナイトは姫に恋をしちゃいけないと思い込んでいるのだ。まあ、よくある両片想い状態なんだけど、高校生ならいざ知らず、お互い24歳でこんなお子様な恋愛は正直かなり痛々しい気もするが・・・

同じく幼馴染の伊織（演：萩原利久）が春にアプローチしてきたり、微妙な三角関係状態の3人でホテルのスイートルーム（1泊50万円越えだが部屋のそこらじゅうにハニワの置物が置いてある）に泊まったり、あと唐突に引越しが決まって離れ離れになるかもしれないとか、ギャグテイストだが定石通りの展開が用意されている。各シーンがきちんと線で繋がっており、プロットは意外にもまとまっていた。登場人物それぞれの仕事が物語に絡む当たりも、割と巧かったし。物語と全く関係なく必要性も皆無な、唐突な同性愛設定には面食らったが（映画オリジナルだそうだ）。

さて、年齢のことはさて置いても、本作を恋愛映画として難しくしている点として、これ楓と春の視点が並列で進むのである。極論を言えば恋愛というのは「他者を全て理解するなどできないことを理解し、それでも他者を受け入れる行為」なのだが、両人とも説明セリフによって本心を明らかにするので、全てを理解させられた観客からすれば、楓と春のどちらにせよ恋愛対象を”他者”と捉えるのは無理である。もっとも、両片想いモノでは「両者の本心を先に明かす」のが絶対条件なため、仕方ないのではあるが。ともかく、観客が主人公の気持ちに寄り添うことができない以上は、どうしても共感性に欠けてしまうのだ。

さらに、春も楓も「なぜ、相手のことを好きなのか」の明確な理由が語られない。伊織や、春に色香をかける恵（演：岡本夏美）には、好きになる正当な理由があったのを考えると、どうにもアンバランスだ。人を好きになるのに理由なんかいらないってことかもしれないけど、そのせいで「2人の恋を応援したい」と観客に思わせるような説得力が極めて弱くなってしまっている。

ただ、前述した批判点は全て狙いだと思われる。さらなる幼馴染・美桜（演：浅川梨奈）が常に状況を正確に把握してはイラついているのだが、この美桜が想定されている観客の視点なのだろう。24歳にもなって子供みたいな恋愛ごっこでウジウジしやがって何だよコイツらって毒づくのが正しい鑑賞法。他人の恋バナで盛り上がる中高生みたいで、こっちはこっちで子供っぽいが、これもまたエンタメのひとつとして確立されている。現実問題、両片想いの状況を楽しむには、第三者として俯瞰的に眺めるしかないわけだし。

なお、ギャグに関しては、面白い（とされる）ことを言うと「チン」とSEが流れるような、そんなレベルでした。SEもそうだし、言い間違いをするとテロップが出たりなど、「ここが笑うところですよ」と優しく教えてくれる説明的な笑い。たとえば、「姫の相手は王子様なんで」と恋愛を諦めようとする春だが、「じゃあ、ナイト兼王子様になっちゃえば」と言われる。そういう発想があるのかと驚いた春は、「青天の霹靂」と言うつもりで「閉店の関取」と叫び、その際にちゃんとテロップで何をどう間違えたか説明してくれる。いや、それより「青天の霹靂」の使い方あってるか？とは思うが。笑いのレベルを低くして一般ウケを狙うのと、ただ単に頭を悪くするのとは違うんだけど。

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