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【邦画】『宇宙人のあいつ』ネタバレあり感想レビュー--飯塚健監督は、人に何かを伝えるための情報を挙げる能力が欠けているのかもしれない


監督&脚本:飯塚健
配給:ハピネットファントム・スタジオ/上映時間:117分/公開:2023年5月19日
出演:中村倫也、伊藤沙莉、日村勇紀、柄本時生、関めぐみ、千野珠琴、細田善彦、平田貴之、山中聡、井上和香、山里亮太

 

注意:文中で終盤の内容に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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以下は、映画『宇宙人のあいつ』の劇中で交わされた会話である。

女「今村昌平監督の『うなぎ』、ご存知ないですか? カンヌ映画祭でパルム・ドールを取っているんですが」
男「いやあ、ダイヤモンド☆ユカイなら知っているんですが」

これ、意味解る? どうやら単発のギャグらしいのだが、面白いかどうか以前に、どこで笑いを取るつもりなのかが不明だ。これをギャグとして成立させるためには、ダイヤモンド☆ユカイと語感の似た単語が前段にあって然るべきなのに、今村昌平にしてもパルム・ドールにしても、かけ離れている。これは一体、何なの?

ボクが勝手に“敵”と認定している飯塚健が監督・脚本を務めた最新作である。飯塚健は映画監督としてはすでに中堅で作品も複数あるが、傍目からは「井上和香との結婚」を超える実績は見出せない。本作では直径15センチくらいある巨大ウナギ(顔がまったくウナギじゃなかっただけど)の声を妻にやらせていた。

高知県の海沿いで、焼肉屋を経営しながら暮らしている4人兄妹。だが実は、次男の日出男(演:中村倫也)は土星から来た宇宙人だったのだ。地球人の生態調査のため1年間の留学のような形で地球に来ており、3人兄妹の記憶を改変して次男に成りすましていた日出男。そして、土星に戻らなくてはいけない期限である23年間(土星にとっての1年間)が3日後に迫った日に、ついに正体を表したのである(長男は既に知っていた)。しかも、兄妹3人のうち誰か一人を連れて帰るという極秘の使命を与えられており、それについては伝えられずにいた。

さて、劇中で描かれる宇宙人(土星人)の特徴を挙げてみる。
・写真には映らない
・首を回して振り向くことができない
・人の記憶を改竄できる
・人に幻覚を見せられる
・Wi-Fiを繋げられる
・ウナギと会話できる

他にもあるけど、まあいいや。色々言いたいことはあるが、一番の謎は「写真には映らない」だろう。それ宇宙人の特徴か? 宇宙人と幽霊と超能力者が混じってないか? 映画『悪魔の墓場』に出てくるゾンビも写真に写らなくて、何でだよって言われていたが、これは約50年前の作品だからね。あと、写真に映らないのに23年間も気づかれなかったのかよってのもあるし。もう、宇宙人という大前提からして、設定が全く詰められていないのである。

23年も過ごした地球を離れるのは寂しくないかと聞かれた日出男は、「土星人からしたら1年間だし」と答えるが、まず土星人の寿命を教えてくれないとさあ、その1年が長いのかどうかも観客には判断できないじゃん。終盤で、日出男は誰かを連れて帰らないと「土星の輪っかのところに建てられた、地球のアルカトラズを参考にした刑務所」に入れられるのだと明らかにされる。その刑期が土星での10年、つまり地球での230年だと聞いて、それ死ぬのと一緒じゃんとか騒ぎ立てるわけだが、だから土星人の寿命はどれくらいなんだって。

土星では、蜂の巣における女王蜂のような存在が全ての生命を産むため家族という概念が無い(これもちょっと考えればおかしいことに気付くけど、いちいち引っかかってられないのでスルーする)ので、それを学ぶために兄妹の中から一人を連れて帰るのだという。えっと、一人だけ連れて帰ったって家族とは何か知るのは無理だと思うが。それ以前に、アルカトラズを理解できるほどの高度な知性なのに家族が解らないってのも変だし。

今までつらつらと並べてきた文句、重箱の隅をつついているわけではなく、物語の根幹に関わる重大な部分だからね。冒頭に挙げた会話を含め、大元から細部に至るまで、どこをとっても作り込みが最低限のレベルにも達していない。飯塚健監督は、人に何かを伝えるための情報を挙げる能力が欠けているのかもしれない。

土星に帰るまでの3日間に、兄妹それぞれとウナギのエピソードがあり、それらによって日出男は家族とは何かを知る(という体になっている)。それまでの23年間は何してたんだよって話だが。で、最終的に長男を選んで宇宙に飛び立つのだが、日出男は兄妹が離れ離れになる辛さを理解してしまったため、空中で長男を落とす。こういうラストにしたかったために「誰か一人だけ連れていく」という意図不明な設定を逆算的に作ったのだろう。

しかしこれ唖然とするのだが、最大のクライマックスである土星への旅立ちシーン、映画の冒頭で見せちゃっているからね。日出男がどういう選択をして何が起こるのか、観客は全て知っているのである。昨今の邦画にありがちな「観客はバカだから全て説明しないといけない」イズムとも、またちょっと違う。よくある、本編の一部を冒頭に持ってくるやつをやりたかっただけかもしれないが、物語の本当に重要な部分を最初に全て教えちゃうのは、まともな感覚じゃできない所業であろう。飯塚健、もはや常人が理解できる範疇を超えている。

あと、今ちょっと検索してみたら、土星の公転周期は地球における約29.5年だそうだ。え、そこから間違ってるの? もうちょっとさあ、自分の作品に対する責任感とか無いの? 本当、飯塚健って何なの?

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