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周藤連
『バイオスフィア不動産』
内部であらゆる資源とエネルギーを供給できる「バイオスフィア3型建築」が世界中に浸透したために、人類は家の中で不自由することなく暮らし一生を終えることができるようになった。家の外に出る者は極少数となり、公共という概念が喪失して法律も経済も意味を成さなくなった世界で、「バイオスフィア3型建築」を管理する不動産会社の社員であるアレイとユキオがクレーム対応のために住人らを訪ねる内容の連作短編集。システム上は絶対にクレームが出るはずの無い状況下で、それでも発生するクレームを解明していくことで、「極端に理想的な世界だからこそ奥に潜んでいる歪さ」を露わにする。架空世界を一から構築したうえで、その世界とは何なのかと改めて追求する作業を繰り返すという、ハードSFの醍醐味を存分に味わえる。極端な閉所恐怖症のために「バイオスフィア3型建築」に入れないアレイが次第にアイデンティティを獲得していく経過は感動的。
逆井卓馬
『七日の夜を抜け出して』
高校の入学式、謎の力によって旧校舎に閉じ込められた4人の新入生が、「弾き手のいない三味線」や「鬼の造った階段」などの「七不思議」を順番に解き明かしていく。鞄に常備している独鈷(密教の武具)を取り出して怪異を物理的に殴って解決していく寺の息子など、4人それぞれに少しだけ超常的な能力が備わっていたり、状況からすればのん気すぎるほどのラブコメ描写など、ライトノベル・レーベルらしさを大いに含んだ造りになっており、純粋に読んでいて楽しい。ラストに施された仕掛けはありがちだが、それまで積み重ねてきた物語をドラマチックに盛り上げてくれる。
ムラサキアマリ
『のくたーんたたんたんたんたたん』
近未来的な都市を舞台に、「死神」と恐れられる殺し屋として活動する男子高校生が、悪魔と契約して死なない身体になった美少女に惚れられ付きまとわれる。表向きは平凡な高校生を演じつつ裏ではクールに暗殺を決めて、キザな言い回しを多用し、周囲の女性から理由も無く好意を寄せられるという、今どき珍しいほどのダンディズムな主人公は、著者の思う「理想の自分」なのだろうか。読んでいるこっちが恥ずかしくなってくるほどだが、あけすけな欲求を世間に向けて大っぴらにできるのも、ひとつの才能であろう。自身の内面を曝け出すという意味では、もしかしたらこれは私小説の一種なのかもしれない。西村賢太の後継者は、ここにいた。
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過去の邦画レビュー本「邦画の値打ち」シリーズなどの同人誌を通販しています。
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