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【邦画】『ショコラの魔法』ネタバレあり感想レビュー--山口真帆には、ミステリアスな存在感で周囲を支配する役柄は難しい

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監督:森脇智延/脚本:金沢達也/原作:みづほ梨乃
配給:イオンエンターテイメント/上映時間:80分/公開:2021年6月18日
出演:山口真帆、岡田結実、中島健、桜田ひより、畑芽育、上野鈴華、森希翔、神岡実希、吉田あかり、湯川玲菜、川口葵、西本まりん、袴田吉彦、東貴博、三浦真椰、綱啓永


 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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原作は2009年から始まり現在も不定期連載中だという少女漫画。≪願いをかなえる魔法のチョコレートの存在を通して、欲深い人間の素顔を描くダークファンタジー≫(公式の解説より)だそうだ。願いが叶う代わりに高い代償もあるので、設定としては『笑うセールスマン』みたいな感じですかね。すでに21巻も出ており、それなりの知名度らしいが、このジャンルは不勉強でまったく知らず申し訳ない。

主演はいろいろあって研音所属に落ち着いた山口真帆とされているが、映画を観てみたところ、事実上の主演は岡田結実であった。最近事務所を変えた2人がメインなのでワイドショー的な話題性を狙ったかと邪推したくなるが、むしろ触れづらいのかメディアで取り上げられている様子は見かけない。

高校の新聞部に所属する飯田直(演:岡田結実)。学内で起こる事件を解決しようと愛用のカメラを持って日々奮闘しているが、イケメン男子の西尾猛(演:中島健)にいつも付きまとわれる挙句、最後には先に謎解きを横取りされてしまうのだ。「おまえには事件を解決できないから、そういうのやめろ」とか言われて「あいつ何なの、最悪ー」って感じ。誰しもがオチを予想できる男女の関係性が提示される。そのオチは中盤でやってくるので、安心してください。

ある日、直のクラスメイトで美術部員の仁科愛利(演:桜田ひより)が絵画コンクールで最優秀賞を受賞。なぜか学校のロビーで記者会見が開かれ、一般の記者に混じって直も取材をする(片隅で発言をメモしてるだけ)。高校生が賞を取っただけで記者が押し寄せる理由も解らないが、質問をする記者役が東貴博なのである。てっきり後で再登場するのかと思いきや、このシーンだけの特別出演。なんで?

あと、袴田吉彦が担任の教師役なのだが、同じように短い1シーンのみの出演。東貴博も袴田吉彦も、出演時間1分未満の端役にしてはネームバリューがあり過ぎるし、かといって一瞬の登場で観客が沸き上がるほどの格でもない。念のため検索したが、どちらも研音所属ではないし(ちなみに、桜田ひよりは研音)。なんなんだろう、この謎のキャスティング。コネだバーターだといった解りやすいものが見当つかないため、とんでもない裏がありそうで、なんか怖い。

さて一方、学園では女たらしで有名な男子生徒が行方不明になっていた。すでに家族からは警察に捜索願が出されているという。今度こそ自分が解決するぞとばかりに、生徒に聞き込みしまくる直。いやこれ、高校の新聞部が首を突っ込んでいい事件じゃないのでは。

それにしても、岡田結実が高校生役なのはさすがに無理があると思っていたのだが、まだ今年で21歳なのね。浜辺美波と同い年だが、実年齢よりも年上に見える。去年放送のTVドラマ『女子高校生の無駄づかい』は観ていないのだが、どんな感じだったのだろう。岡田結実は目と眉毛の動きがダイナミックなので、アップになった時の顔の演技はスクリーン向きかもしれない。

事件の手掛かりが見つからず焦る直。すると、机の上にハート型のメモ書きが。そこには「願いの叶うチョコレート屋。ショコラ・ノワール」と書かれていた。巷で都市伝説になってる店だ! と、ジャーナリズム魂を発揮して森の奥深くに入り込む直。道なき道、というか完全に道ではない場所を彷徨い続け、草をかきわけた先に不気味な雰囲気の洋館があった。メモには地図も何も書いていないけど、なぜ道が解ったのかは知らない。たぶん超常現象的な何かなんでしょう。

洋館に入り奥の部屋に進むと、紫のウイッグを被ったゴスロリ風ファッションの哀川ショコラ(演:山口真帆)がいた。「私の手で事件を解決したいの!」と訴える直に、ショコラは"真実が解るチョコレート"を差し出す。ショコラは「お題は頂くわ。私の代償は高いわよ」と忠告するが、代償の内容も聞かずにチョコを食べてしまう直。するとカメラに新たな写真が。行方不明の男子生徒がいる場所を撮影したのでは、と大ヒントを貰える直。しかしずいぶんと即物的な魔法である。

で、そんなこんなで猛の手助けもあって工事中の体育館倉庫で気を失っている男子生徒を見つけるも、犯人の自称恋人に恋敵と勘違いされて一緒に閉じ込められ(いや、好きな人と恋敵を同じ場所に閉じ込めちゃダメでしょ)、夜中になって猛から救出されて抱き合って一件落着。その間ずっと倒れて意識を失ったままの男子生徒が気になって仕方なかったが。あと、結局この件は新聞記事にしたの? 直、事件解決には異常な執念を見せるが、新聞記事を書きたいわけではなさそうなので、理解に苦しむところである。

で、直は自分を救ってくれた猛を見直し、共に事件を追うためのコンビを組むことになる。これ、チョコレートを食べた代償としてショコラが直から「頑なな心」を頂いたからなんだって。代償が安くないかと劇中でもツッコまれてはいるけど、これでは代償でも何でもなく、大本の設定が破綻している。そして、ここまでの上映時間は、まだ半分しか経っていない。このあとすぐ、次の事件が起こります。

美術部員の一年生・水無月花音(演:畑芽育)が行方不明になった。しょっちゅう生徒が行方不明になる学校である。愛利は花音と仲が良く、彼女が受賞した絵は花音のために描いたのだそう。さっそく捜査を開始する直と猛は、花音の母親からも詳しく話を聞く。いやあの、自分の娘がいなくなって憔悴している母親を、あんたらの探偵の真似事に突き合わせるとか、本当に人としてどうなんだ。江戸川コナンも金田一一も、部外者の一般人が事件の手掛かりを探す苦労をきちんと描写しているのに、そういうところをすっ飛ばすのはさあ。

駆け足で説明すると、花音がいなくなったのは実は全て愛利の仕業だった。後輩のくせに自分より絵が上手い花音を妬んで、周囲を扇動してイジメの標的にしたあげく、コンクールに出品させないように例のチョコレートを食べて花音を絵の中に閉じ込めていたのだ。表向きは後輩を心配しているふりをして、一人になると「キャハハハ」って笑う、ベタなタイプの狂人。桜田ひより、少し前の映画でも、ほぼ同じ役柄だったような。そっちの道を突き進むのか。

で、愛利がひとり美術室に残っていると、隣の準備室から物音が。花音を閉じ込めた油絵が床に墜落し、こちらを睨んでいた。恐怖におののいた愛利が美術室から出ようとすると、鍵がかかっている。ハンマーで鍵を壊して外に出るも、なぜかそこも美術室。もう一度ハンマーで鍵を壊すが、やっぱり美術室。それを5回くらい繰り返す。準備室のほうにも廊下と繋がる扉があるし、あと窓から出るとか、他の手段は思いつかないのか。全てを察知した直と猛が準備室のほうの扉から入ってきて、とりあえず助かる。ほらー。

で、花音を助けようと油絵を持って例の洋館に向かう直と猛。ショコラに花音を戻すように訴えるが、後から追いかけてきた愛利が割って入ってくる。そして色々とクライマックス的なやり取りがあって、花音は助かるが逆に愛利が自分の描いた絵の中に閉じ込められてしまう。洋館に飾られ、赤い涙を流す絵の中の愛利。直の時と代償のレベルが違いすぎやしないか。あと、これだと新たな行方不明者が出てるってことになるけど。短期間に3人目。この高校、翌年の入学希望者は大幅に減るだろうな。

この話の根本的な問題として、作品の肝であるはずの「願いの叶うチョコレート」の扱いがぞんざいなのね。直も愛莉も、チョコを食べたことで超えてはいけない一線を越えてしまったって話にはなっていない。そもそも、主人公の直が最初にチョコを食べるのも、脚本術の定石を逸脱しているし(チョコ絡みの事件がいくつか起きたあと、最後に主人公にもチョコの誘惑が…、ってのがベターでしょう)。最初の事件の犯人なんて、チョコを食べてすらいない。ここさえ整理されていれば、まだ良かったのに。

最後に、皆さんが気になっているであろう山口真帆だが、実はそんなに出ていない。『笑うセールスマン』でいうところの喪黒福蔵ポジションなので、それは仕方ない。だがこの場合、数少ない出演シーンがどれも物語上の重要なターニングポイントとなるため、ミステリアスな存在感を瞬間的に見せつける必要がある。ところが山口真帆、何を言っているのかちゃんと聞き取れないレベルで舌足らずなのである。発言ひとつで周囲を支配するような役柄とは、致命的に相性が悪い。研音は、山口真帆の売り出し方を今一度考え直したほうがいいかも。桜田ひよりは、今のままでいい。
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