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【邦画】『人狼ゲーム』シリーズ過去7作を観たら予想外に面白くて驚いた

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自分は、一介の映画好きとして、観てもいない映画の中身を勝手に想像して「つまらない」と決めつけて馬鹿にするような卑劣な行為だけは絶対にしないと思い込んでいた。だが、それが間違いでったと思い知らされた。というのも、今週末(2020年11月13日)に最新作が公開される映画『人狼ゲーム』シリーズの過去作をまとめて鑑賞したのだが、これが意外にも面白くて驚いたからである。特に熊坂出監督による最初の2作は、日本のサスペンスホラー映画としては刮目すべき作品だ。

 

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面白いと感じただけなら良いのだが、面白いと感じたことに驚いたのならば、鑑賞するまでは面白くないと決めつけていた何よりの証拠である。自分もこうした偏見を持っているのだと反省しきりだ。誠意をもって謝罪したい。

『人狼ゲーム』シリーズとは、いきなりどこかの建物に集められた高校生男女が生死をかけた「人狼ゲーム」に強制的に参加させられるという内容の日本映画である。おおよそ1年に1度ペースで新作が公開されているが、ほぼ話題に上ることも無く映画業界からはスルーされている。一応は若手の登竜門とされており、たしかに現在活躍中の役者も多数出演しているが、彼らの略歴紹介にこの映画のタイトルが載ることは稀だ。

日本映画界に蔓延する「劇場公開こそが最終目的で興収などどうでもいい映画」のひとつだという認識をしていて、まあそれは間違いでも無いだろうが、そんな偏見を持ちつつ『人狼ゲーム』シリーズを鑑賞したところ、そのクオリティに驚いたのである。これまで酷い論理ゲーム映画を山のように観ていたゆえの相対評価かもしれない。だが、こんなところに論理ゲーム映画の正解があったのかと感服したのは確かだ。

論理ゲームを映画で取り上げる際、いくつも乗り越えなくてはいけない壁があるが、最大の問題は「論理的な思考や展開を観客に伝えるのが映像では困難」な点であろう。紙媒体、特に漫画であれば、途中に図表やイメージイラストを自然に挟み込めるので、状況説明や各人の脳内を簡潔に表現することができる。読者は自分が理解できるまでじっくりと図表を見ればいいのだし、

実際、論理ゲームものは漫画に向いている。『カイジ』『LIAR GAME』『神様の言うとおり』『賭ケグルイ』『今際の国のアリス』などなど、多くの漫画作品は作品内で図表やイメージイラストを多用して状況や思考を説明している。だが映像作品、特に映画館で鑑賞する場合、図表を出したところで一時停止するわけにもいかず、観客が理解する前に話が進んでしまうことがよくある。かと言って観客に懇切丁寧に説明しようとすると、テンポが失われダラダラとしたものになってしまう。先に上げた漫画の実写映像化作品(NETFLIX『今際の国のアリス』は公開前だが)を思い出してもらえれば、その難しさはよく解ると思う、

では『人狼ゲーム』シリーズは、この難問にどのような答えを出したか。原作小説があるので、おそらく展開(誰が死んで生き残って、という流れ)は原作そのままだろう。だが、物語の展開はたしかに理に適っているものの主軸に置かれていない。しっかりとしたロジカルなストーリーテリングは裏に回して映画における背骨の役目を担わせており、前面に押し出しているのは、不条理な空間構成を創り出す演出である。なるほど、この方法があったか。

実際のところ『人狼ゲーム』シリーズは、観客が主人公と同化して「どうやって生き抜くか」とか考えるタイプの作品ではないのである。どちらかというと俯瞰的に、若者たちが無理やりゲームに参加させられている不条理な状況を第三者として鑑賞していく作品だ(そのため、共感を得にくいほど主人公が狂っている場合も多々ある)。論理ゲームものの映画において、論理は前面に押し出さない、これこそが正解だったとは目から鱗である。

さて、各作品についての簡単なレビューを並べてみた。なお、(今回は未見のTVドラマ版を除いて)シリーズで共通の役者が出演しておらず、作品ごとの繋がりは一切不明。各作品ごとに別の世界観の可能性もある。この手法は非常に巧い。

 

※ 文中で、直接のネタバレはしていませんが、ある程度は展開に触れていますのでご注意ください。

 


『人狼ゲーム』
監督:熊坂出/脚本:夏野みや子、川上亮、熊坂出/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:110分/公開:2013年10月26日
出演:桜庭ななみ、太賀、竹富聖花、岡山天音、入江甚儀、大沢ひかる、梶原ひかり、藤原薫、平埜生成、藤井美菜

桜庭ななみ主演のシリーズ第1作。天井からビニールが吊り下げられているからではないが、どこかしら黒沢清作品を思わせる。とは言いすぎかもしれないが、たまにユーロスペースでかかっている黒沢清に影響を受けた学生の卒業制作みたいな趣がある(これは全くもって悪口ではない)。
人物の配置や移動によって演劇的に表される心象、手持ちとフィックスそれぞれのカメラの特色を露骨に用いた映像演出、何度も行われるフレームアウト処理(画角から外れたところで人が死んだりなど)、投票で指名された人を皆で殺しにかかるシーンでの長回しと死体のワンカットのみであっさりと済まされる人狼の襲撃の対比。などなど、不条理な空間を構築するためのテクニックに全ての労力を注いでいる。だからこそ「ここも外の世界と同じ」という陳腐なセリフにも重みが生まれるのだ。
出演者の中での注目は、やはり太賀(現:仲野太賀)で、一見すると無垢な善人っぽい風貌が不条理な空間の中で怪しく際立っていた。

人狼ゲーム

人狼ゲーム

  • メディア: Prime Video
 

 


『人狼ゲーム ビーストサイド』
監督:熊坂出/脚本:山咲藍/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:112分/公開:2014年8月30日
出演:土屋太鳳、森川葵、青山美郷、藤原季節、佐久間由衣、小野花梨、加藤諒、育乃介、國島直希、桜田通

土屋太鳳主演の2作目。シリーズ最高作であるばかりでなく、日本のホラー映画史に刻まれるべき傑作であると断言する。前作では主に技術班による演出によって不条理を産み出していたが、本作ではその多くを、主人公の樺山由佳を演じる土屋太鳳の存在に担わせている。
狂気的でありながら理性的で、ひとりだけ生き残ろうとする強い野心がありながら弱気な他者は許せないなど、相容れないものを複数同時に内包したまま圧倒的な存在感を放つ樺山由佳は、『人狼ゲーム』シリーズが生み出した奇跡のキャラクターだ。
他の役者たちも定型のパターン演技に囚われない異常さがあり、不条理劇を盛り上げている。そのため論理を超えたところでなされた普通ならあり得ない結末にも「まあ、そうなるべきか」と思わせられる力がある。
後に邦画に欠かせない存在となる役者が多数出演しているが、土屋太鳳と対になって"常人"を務め上げた森川葵の潜在能力が光る。

人狼ゲーム ビーストサイド

人狼ゲーム ビーストサイド

  • メディア: Prime Video
 

 


『人狼ゲーム クレイジーフォックス』
監督:綾部真弥/脚本:川上亮、綾部真弥/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:97分/公開:2015年12月5日
出演:高月彩良、冨手麻妙、柾木玲弥、斎藤嘉樹、萩原みのり、冨田佳輔、長村航希、村上穂乃佳、水石亜飛夢、奥村秀人、山根綺、藤井武美

高月彩良主演の3作目。今作より監督が変更となり、作品の路線も変わり始める。役職「狐」となった主人公が、一目惚れした男子を何より最優先するために場が荒れるという狙いは確かに一定の成功は収めているものの、主人公の狂気が突き抜けるところまでは到達していなかったか。今回は主人公の「狐」視点と並行して「人狼」視点もあり、展開だけでも煩雑なうえに複数人の恋感情が交錯していたが、一応きちんと整理されていたのはさすが。

人狼ゲーム クレイジーフォックス
 

 


『人狼ゲーム プリズン・ブレイク』
監督:綾部真弥/脚本:川上亮、綾部真弥/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:99分/公開:2016年7月2日
出演:小島梨里杏、渡辺佑太朗、山谷花純、清水尚弥、岡本夏美、花影香音、篠田諒、金子大地、小山莉奈、濱正悟、池田和樹、梅村紗瑛

小島梨里香主演の4作目。これまでは神みたいな扱いであったゲーム運営側の存在が、はっきりと認識されており、その点においてシリーズのターニングポイントとなる作品。シリーズでは唯一、主人公の役職が冒頭で観客に示されない。というのも主眼がゲーム展開にはなく、いかに運営側を欺くかがキモの話になっているため。
それゆえ、雰囲気に最大の魅力が宿っていた前作まででは気にならなかったゲームのルールの上での不備が、本作では大きな引っかかりとなってしまっている。「他者に危害を加えてはいけない」の基準が劇中で曖昧だったり、監視カメラの映像には死角があるとして盗聴は何もしていないのかなど、ストーリーと大きく関わる部分での設定の穴がきちんと埋められていない箇所が目立つ。

人狼ゲーム プリズン・ブレイク

人狼ゲーム プリズン・ブレイク

  • 発売日: 2017/04/15
  • メディア: Prime Video
 

 


『人狼ゲーム ラヴァーズ』
監督:綾部真弥/脚本:川上亮、綾部真弥/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:108分/公開:2017年1月28日
出演:古畑星夏、佐生雪、平田雄也、溝口恵、前田航基、森高愛、春川芽生、安藤瑠一、鈴木知尋、中村萌、池田純矢

古畑星夏主演の5作目。主人公の陣営が模索する、ルールの穴を突こうとする作戦は、『LIAR GAME』の基本精神に近い。特に運営側の具体的な活動内容が明らかになったことで、熊坂出監督時代の不条理劇としての魅力は消えてしまったかのようで残念。最終投票の結果からラストに至るまでの流れは衝撃ではあるのだが、いずれも観客に向けて丹念に理由を説明するため、逆に魅力を削いでしまっている。

人狼ゲーム ラヴァ-ズ

人狼ゲーム ラヴァ-ズ

  • 発売日: 2017/04/15
  • メディア: Prime Video
 

 


『人狼ゲーム マッドランド』
監督:綾部真弥/脚本:川上亮、綾部真弥/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:108分/公開:2017年7月15日
出演:浅川梨奈、松永有紗、門下秀太郎、飯田祐真、栗原吾郎、長谷川ニイナ、眞嶋秀斗、木下愛華、坂田将吾、佐奈宏紀

浅川梨奈主演の6作目。いつもと違うルールによって自称「人狼」に皆が媚びるという、図式的な構成になっている。そのため物語や各人の演技には普遍性があって解りやすいのだが、1作目から順番に観ている者としては、結局はエンタメ方向に舵を切るのかと寂しい気にも。もっとも、シリーズで暗黙の了解とされてきた件を裏切った終盤の展開は、余韻を含めて素晴らしかった。

人狼ゲーム マッドランド

人狼ゲーム マッドランド

  • 発売日: 2018/04/01
  • メディア: Prime Video
 

 


『人狼ゲーム インフェルノ』
監督:綾部真弥/脚本:川上亮、綾部真弥/原作:川上亮
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:108分/公開:2018年4月7日
出演:武田玲奈、小倉優香、上野優華、松本享恭、時人、平松賢人、都丸紗也華、貴志晃平、吉原雅斗、海田朱音、水野勝、足立理、加藤虎ノ介

武田玲奈主演の7作目で、TVドラマ版の完結編という位置付け。「謎の男」と称してモニターを見る運営側が登場したり、警察の捜査が並行したりしているが、映画単体としてはまったく必要が無く邪魔なだけで閉口する。
ゲーム参加者は全て同じクラスの生徒で、過去に学校で起きた事件による複雑な人間関係が前提としてある。そのため論理ゲームと私怨が拮抗する展開となるのだが、愛する人のために行動する人物が当然のように複数存在するのでは、狂気の大盤振る舞いなだけで有難みは無くなる。空間演出も役者の演技もベタをなぞるだけで面白さは無く、イレギュラーな1本として捉えるべきか。

人狼ゲーム インフェルノ

人狼ゲーム インフェルノ

  • 発売日: 2019/06/01
  • メディア: Prime Video
 

 


そんなわけで過去作を全て観終わったので、2020年11月13日公開の『人狼ゲーム デスゲームの運営人』は、映画館で鑑賞してレビューを書く予定です。はじめて男性、しかも運営側が主人公、さらには監督が綾部真弥ではなく原作者という、おそらくシリーズ中でも毛色の変わった作品のような予感がしていますが。

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