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【邦画】『妖怪人間ベラ』ネタバレあり感想レビュー--森崎ウィンの怪演が盛り上げるホラーならではの高揚感

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監督:英勉/脚本:保坂大輔/原作:ADKエモーションズ
配給:DLE/上映時間:100分/公開:2020年9月11日
出演:森崎ウィン、emma、堀田茜、吉田奏佑、吉田凜音、桜田ひより、清水尋也、六角精児

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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『事故物件 恐い間取り』レビューの時に「ホラーが苦手」と書いたが、あれは正しくは心霊ホラーで、幽霊だからと不条理を言い訳にして物語の瑕疵を誤魔化しているのがダメなんだということである。同じホラーでも相手が妖怪だったり人間だったりの場合は、彼らなりの論理が存在していれば充分に楽しめる。で、今回取り上げる『妖怪人間ベラ』は、そんな上質の王道ホラーだったので非常に驚いた。

ほとんど前知識なく、出演者すらおぼろげな状態で池袋HUMAXシネマズへ観に行った。というより、大元のアニメ『妖怪人間ベム』すら、実はよく知らない(様々なトリビュート企画にもほとんど触れていない)。そしたらこれ、『妖怪人間ベム』というアニメが存在する世界(つまり我々のいる現実世界)だったので、「メタ構成なのか!」とさっそくテンションが上がったわけである。

『妖怪人間ベム』のDVD-BOXを担当する広告代理店の社員・新田康介(森崎ウィン)は、当時のスポンサーからNGを出されたという幻の最終回を見てしまう。これが断片的な線画が無秩序に連なったドラッグムービーで、ベラが最後に言ったセリフ(音声は入っていない)が何だったのか、康介は気になって仕方なくなる。

と、ここで急に別の話が始まる。舞台はとある女子高で、「百合ヶ丘ベラ」と名乗る少女(emma)が転入してきたところから始まる。モデルの仕事もしているクラスの人気者・綾瀬莉子(吉田凛音)のお株を奪う形で、体育の授業などで活躍するベラ。しかし、正体の解らない誰かからの陰湿なイジメを受け始める。庇ってくれるのは綾瀬の友人でもある牧野沙織(桜田ひより)だけだ。

話そのものはベタなのだが、切り刻まれた制服やミミズ入りのスパゲッティなど、ギリギリやり過ぎのツボを押さえたイジメ表現が雰囲気を盛り上げる。ほとんど言葉も発さず無表情で事態を受け入れるベラと、大袈裟にリアクションする牧野のコントラストも良い。そこから流れるように話は転回し、かなり直接的なスプラッタ描写にまで行き着く。このようにエスカレートしていく疾走感には高揚しかない。

この後、実は康介の話とベラの話が同じ空間で起こっていると明かされる。女子高のほうは意図的に時代を誤魔化しているようだったので(スマホが登場しないなど)、てっきり入れ子構造だと思い込んでいたために驚いた。ここからは、幻のフィルムを見てしまったがゆえにベラに囚われて精神を侵食されていく康介の話となる。

妻と息子の3人で絵に描いたような幸せ生活を送る康介だが、ベラに囚われて以降はどんどんとおかしくなる。本作で大きなウェイトを占めるのが、普通の人間が狂気を帯びていく、このサイコホラーの部分である。徐々に、あるいは唐突に、狂気を露わにする森崎ウィンが素晴らしく、こんな演技もできるのかと感心した。

狂人描写で最も恐ろしいのは、自分が狂人だと自覚して本性をギリギリ抑え込みながら日常風景の中にいるときであろう。ファミレスにて、顔は平然を装いながら机の下ではナイフを握って衝動を抑えているとか、そういう日常に潜む狂気の演出は素晴らしい。元々が甘いマスクのイケメンなのも相まって、森崎ウィンだからこその上質なサイコホラーを創出している。

舞台が日常から切り離されて、康介が完全なる狂人と化した後も、森崎ウィンの怪演は止まらない。斧を持ってニタニタ笑いながら息子を追い詰めていく様は、完全にジャック・ニコルソンだったし。標的が実の子供ってのも王道のサイコホラーであり、高揚は止まらない。この映画の半分は、森崎ウィンでできていると言っても過言ではない。

さらに映画が進むと、(元が『妖怪人間ベム』なのだから当然だが)異形の生物によるモンスターホラーへと変容する。この辺りで、アニメ『妖怪人間ベム』の世界もまた現実と同じ時空にあったと示される。入れ子構造かと思われていた複数の世界は、実はすべて同じ空間でフラットに繋がっていた。この結論は、人気アニメや漫画を安易に実写化する風潮への批評にもなっている。

とにかく、スプラッタ、サイコ、モンスターと、ホラーの王道ジャンルが順繰りに登場し、いずれもインパクトのある見せ場が何度も用意されている。繋げ方に多少の強引さはあるものの、何度もジャンルを横断するためにどこに連れていかれるのか解らなくなる疾走感には、ホラーならではの興奮を引き立てられる。この職人的な手腕、本当に感服する。

しかし、急にこんな傑作を撮るなんて、英勉監督はどうしたのか。過去のお世辞にも良いとは言えない作品群からすれば、監督もまたベラに精神を侵食され、別人格にされてしまったのかと疑いたくなるくらいだ。『ぐらんぶる』も思い切った方法論を採用して成功させていたし、これなら『映像研には手を出すな!』にも期待がかかる。

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