監督:三池隆史/脚本: 加藤陽一/原作:タカラトミー、OLM
配給:KADOKAWA=イオンエンターテイメント/上映時間:80分/公開:2020年7月23日
出演:菱田未渚美、山口綺羅、原田都愛、石井蘭、中尾明慶、石田ニコル、黒石高大、ぺえ、斎藤工、関口メンディー、大鶴佐助、小浦一優、ダンディ坂野、本田翼
注意:文中で結末まで触れていますので、未見の方はご注意ください。ネタバレしたからどうこうって作品でもないですが。
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鬼才・三池隆史監督が、東映ヤクザ映画を現代にアップデートさせた傑作『初恋』の次に世に出した作品ならば、絶対に抑えておかなければいけないはずである。それが、中学生のガールズ戦士を主人公としたテレビ東京の子供向け特撮番組の映画版であったとしても、だ。『十三人の刺客』の次が『忍たま乱太郎』の実写版だったのを思い出す。わざとやっているのかもしれない。
まじめな話、ちょっと気になったこともあって、あえて親子連れの多そうなグランドシネマサンシャインの昼間の回に行ってみたのだ。感染症対策による1席空けの現状は、小さな子供連れには不便なのかどうなのか知りたくて。個人的には、同じ家に住んでいる家族が映画館でのみ間隔を空けても意味無いと思っているので、勝手に席を詰めたって構わないのだが。
自分の観た回は未就学の子供(女児が多め)を連れた親子が大多数を占めていたが、席を詰めることもなく、大人しく座っていた。むしろすぐ横に話しかける相手(親や兄弟)がいないことで、よりスクリーンに集中していたのかもしれない。来月のドラえもん公開時にどんなパニックが起こるか怖いのだが、これなら杞憂かも。
さて、本作は80分しかなく、しかも変身やら何やらのたびに何度もCG空間で歌ったり踊ったりするパートになるので、話自体は非常に短い。どうやら「逆逆警察」なる悪の組織がいて、魔法か何かで一般人を「イケナイヤー」なるものにしているらしい。そこに現れる正義の盗賊「ファントミラージュ」の4人が「イケナイヤー」からイケない心を奪って元の人間に戻す、というのがパターンと思われる。
冒頭で、芋洗坂係長が「オシリプリプリヤー」にされてからファントミラージュによって元に戻るまでの一連を早足で見せてくれるので、TV版を見ていなくてもシステムはすぐに理解できる。一件落着のところに、世界を股にかける映画監督・黒沢ピヨシ(中尾明慶)が現れて、ファントミラージュを主演にして映画を撮りたいと言い出す。
ここに触れたら相手の思う壺とは解っているが、黒沢ピヨシ監督って、その苗字はどうなのか。モデルは明か清のどっちか(あ、どっちも中国の王朝だ)だろうが、見た目から判断するに清かなあ。主演のスケジュールを確保しただけで記者会見を行い、前売りチケットまで販売したあとで映画の企画内容を考えていて、順序が完全におかしい。自分の所属する業界のことでありながら、こういう間違いを躊躇なくできるのが、三池崇史の強みであろう。
黒沢監督の事務所はなぜか廃業した銭湯の跡地で、ゴチャゴチャと置かれた小道具や映画ポスターも謎めいていて、変な空間である。物語と無関係に窓の外で多くの人が不思議な行動をしているのは、『クリーピー』の大学研究室のシーンを思い出した。じゃあ、やっぱり清じゃん。
そんなこんなで時代劇を撮ることに決まり、TV版との繋がりらしく小栗旬や斎藤工がちょっとだけ出てきたあと、舞台は東映の撮影所に移る。侍の衣装を着た人がカメラクレーンに乗っていたりと、よく見るとやっぱり変なんだけど。で、いざ撮影直前に逆逆警察の魔の手が忍び、黒沢監督は「ヘンナエイガトルヤー」にされてしまう。
もう一度、強調しておくね。黒沢監督が「ヘンナエイガトルヤー」にされるのだ。これはブラックジョークなのか何なのか。解釈が非常に難しいが、三池崇史は特に何も考えていない、ってのが真相のような気もする。予告でもどうかと思っていたファントミラージュの面々のちょんまげ姿は、「ヘンナエイガトルヤー」の仕業だ。そして大根を折って決め台詞とか、シュールなことをやらされる。
その後は、同じく操られた忍者役のスタントが襲ってきたり、ファントミラージュのひとりが描いた絵心の無いクマのイラストを忠実に再現した着ぐるみと戦ったりする。何度も歌のシーンが挿入されるので話がなかなか進まないが、子供向けの特撮ものって、今こういう感じなのか。このご時世でなければ観客の子供が声を出して応援する箇所なのだろう。
で、もちろんファントミラージュは勝利を収め、黒沢監督は元に戻る。一連の戦いはカメラを回して撮影していたので、これをこのまま映画にしちゃえってことでめでたしめでたし。まあ、技術班が優秀なだけで、黒沢監督はずっと洗脳されていただけで何もしてないけど。黒沢なる苗字を当てがった映画監督を、こうも貶めているのは、三池崇史による恣意的な狙いがあってのことなんだろうか。本当に判断つかない。
ちなみに中盤で、撮影用の巨大送風機で風を顔面に当てられながら、ファントミラージュの面々が決め台詞を言おうとする、物語と何も関係ない謎のシーンがある。かわいい女の子が変な顔にされてスクリーンに大写しにされるという辱めに、三池崇史の変態性が垣間見えた。
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