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【邦画】『都会のトム&ソーヤ』ネタバレあり感想レビュー--「伏線のようでいて、別に何とも繋がらない事象」が大量発生していて混乱を極めている

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監督:河合勇人/脚本:徳尾浩司/原作:はやみねかおる
配給:イオンエンターテイメント/上映時間:95分/公開:2021年7月30日
出演:城桧吏、酒井大地、豊嶋花、渡邉心結、吉原徠地、山下森羅、りきまる、谷垣有唯、松本ししまる、松本大輝、松澤和輝、山本麗美、中川大志、玉井詩織、森崎ウィン、本田翼、市原隼人

 

注意:文中で終盤の内容に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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どうしよう。話が難解すぎて意味が解らない。原作は児童文学小説の人気シリーズと聞いていたが、疑いたくなってくるレベル。いや、話の骨格自体は、中学生の小さな冒険譚という単純なもののはずなのだ。だがそこに、いちいち挙げていったらキリがないほどの「伏線のようでいて、別に何とも繋がらない事象」が大量に付け加えられることで、大いなる混乱を招いているのである。

一例を挙げる。中学校の中庭で映画部が撮影を行っているシーンが序盤にある。ここで、映画部員がひとりづつテロップ付きで名前と役職と簡単な性格を紹介される。そんな丁寧な紹介をされるのならば、映画部員たちは主要な登場人物であると、観客は当然思う。でも実際は、個別に名前を覚える必要が無い程度の脇役なんだよ。さらには主人公にヒロインが「映画部を手伝ってよ」と誘うセリフがあるが、これも後の展開とは絡まない。完全にミスリードの域を超えているので、今回は偽伏線と呼ぶことにする。

主人公は中学生の内藤内人(演:城桧吏)。幼馴染のクラスメイト・堀越美晴(演:豊嶋花)に促されて、竜王グループの御曹司である同級生・竜王創也(演:酒井大地)を尾行するも完全にバレていて、廃墟ビルみたいなところに誘導されては試練(張り巡らされた紐に触らないように進む、とか)を与えられる。ここでの堀越さんの言動が不自然すぎるので裏で創也とつるんでいるのかと推測したが、偽伏線だった。

正体不明のゲームクリエイター「栗井栄太」が、新作ゲームのテストプレイヤーを募集していて、応募するにはまず暗号を解かなくてはいけない(ネットか何かで公表されているらしい)。創也は暗号を解読(内容は省略します)して「貯水池」という単語と日時を読み解く。ちょうど翌日だったので、事情を何も解っていない内人をピクニックと称して近所の貯水池の前に呼び出す。

いや、貯水池って日本だけでも無数にあるでしょ。なんで近所の貯水池にピンポイントなの? あと、日時まで指定されているなら暗号を解読した人が全国から集まってくるんじゃないの? そんな疑問に答えてくれることは無く、2人は他に誰も来ていない貯水池の中に入り階段を下りていくと、「栗井栄太」の用意した豪華な部屋に行きついた。なお、その貯水池の内部では「こっちだ」と創也が内人を案内しているので、創也はここに来るの初めてじゃないのだなと推測したが、はい、これも偽伏線です。

なんだかんだでリーダーの神宮寺直人(演:市原隼人)率いる「栗井栄太」集団4人の元に辿り着いた内人と創也。ジュリアス・ワーナー(演:玉井詩織)からは子供には危険ではと言われるが、テストプレイヤーの権利をかけたゲームへの参加資格を得る。ちなみにジュリアス・ワーナー、原作小説だと小学6年生の少年で、学校以外では女装してジュリエットと名乗り大阪弁を喋るらしい。ああ、あの玉井詩織の不自然でぎこちない演技、男っていう設定があったからなのか。

ゲームでは、いくらでも仲間を誘っていいので、堀越さんや映画部員や担任の先生も引率で集まっていた。協力して頑張ろうと言う内人に対して、創也は謎を解くのは自分であり皆は敵だとそっけなく、空気を悪くする。創也は、頭の回転は速いが冷徹で他人の気持ちが解らないので、そこを内人がサポートする、という図式。なんだけど、他の参加者ならともかく、映画部員は仲間なんじゃないの? 創也、ただの嫌な奴なんだけど。

ゲームの内容だが、街一帯をフィールドにしたリアル脱出ゲームのようなもの(エンドロールにはSCRAPもクレジットされている)。ヒントから謎を解くと街のどこかの場所が指示されていて、その場所に行くと次のヒントがもらえて、という感じ。ただし街にはZと呼ばれるゾンビ的な者がうろついていて、捕まった人はZになってしまう。謎解きとは基本的に無関係な敵がうろついている様子は、フジテレビ『逃走中』に近い。

街の住人のほとんどはZになってしまい、残されたのはゲーム参加者のみ、という設定。実際の街の住人をどうしたのかは知らない。それはいいのだが、Z(赤い布を被った、灰色メイクの人間)って神宮寺が雇用した人たちが演じているのだろうけど、かなり本気で襲い掛かってくるのね。「触れられたら失格」とか明確なルールが無いので、どうなったらアウトなのか、よく解らない。謎解きゲームの範疇を超えたゾンビホラー状態になっていたりするし。

しかも、Zに捕まった参加者は自分もZになってしまう設定のため、その参加者も灰色メイクを施してZの役をやらなくてはいけないのだ。急にそんなのを演じろって言われても無理だし、神宮寺側も統率が取れなくて収拾がつかなくなるのではないか。あまり意味も解らず参加していた担任の先生も必死でZになって襲い掛かってきたけど、なんでこんなことをやらされるのかと恥ずかしかったに違いない。

ゲームの謎の内容は省略するが、かなり大味。まあ、『名探偵コナン』劇場版と同じ程度。創也は全ての謎を瞬時に解いていくので、そこでの盛り上がりは皆無。一方、映画部員を目の前で見殺しにするなど冷徹さは筋金入りで、内人は苦悩する。そんな中、Zに襲われた内人は頭を打ったか何かで気を失ってしまう。

次の瞬間、内人は創也の隠れ家にいて、なぜかそこにピエロが2人いた。このままゲームを続けてよいのかとかなんとか(すみません、よく覚えてないです)、内人に気味悪く忠告をするピエロ。うわーと叫んで起き上がると、どこかの部屋の中で、創也と堀越さんがいた。内人が気を失っている間に2人が安全な場所に運んでいて、ピエロは内人の夢の中に出てきたのだ。

そして次の場所に移動中、内人たちは何者かに尾けられていると気づく。倉庫の中に隠れるも、相手に見つかり、外からドアの鍵をかけられたうえに(普通は中から鍵を開けられるけど)、火を放たれる。必死で逃げようとするも、シャッターの鍵は錆びついていて動かない。あ、そういえばゲームが始まってすぐの時に映画部員のひとりから栓抜きを渡されたのだった。栓抜きを使ってテコの原理の要領でシャッターの鍵を壊し、外に脱出する。

いやー、この映画で初めて伏線が回収されたよ、じゃなくて、何も脈絡なく唐突に栓抜きを渡されるって、どういう精神状態だったらそんな脚本を書けるの? あと、倉庫の中にはグチャグチャと物が置いてあったので、別に栓抜きが無くても使えるものは幾らでもあったと思うけど。

監視カメラでゲームの様子をずっと見ていた神宮寺は、放火という予想外のトラブルが起きたため、ジュリアスに連絡をして現地に向かわせる。いや、ゲームイベントを中止していいくらいの緊急事態じゃね? 一方、ゲーム参加者の男が堀越さんを捕まえてナイフを突き立て、それまで集めてきたアイテムを渡せと内人たちを脅してきた。あのさあ、そんなことしてアイテムを手に入れたところで問答無用で失格だろ。これ、ただのイベントだよ。

色々あって、恐喝を働いた参加者はジュリアスの手で連れ出される。筋肉質の若い男なので、体格差を考えたら、玉井詩織に任せるのは危険な気がするが。放火の件もそいつだと決めつけられているが、本人は身に覚えがない。観客には、内人の夢に出てきたピエロの仕業だと示唆される。ゲームイベントに外側から入り込んできて内人たちの命を狙おうとする何者か、しかも他人の夢に入り込むような人知を超えた謎の存在が登場したのだ。あまりに壮大な不測の事態が発生しているわけで、一気に話が面白くなってきそうな予感がする。まあ、予感だけだったけど。

創也は「Zを消滅させるのではなくZを人間に戻すべき」という内人の説得によって最後の謎に潜むトラップにも気づき、とてもイベントの仕込みとは思えないZの猛追からも逃げ切り、ゲームをクリアする。そこで急にVR空間に飲み込まれたりするけど、もうそんな程度のことでツッコミを入れていたら身が持たない。

それにしても、この話で成長しているのは、強いて言えば創也だけなのね。視点人物である内人は、創也に振り回されているのみ。堀越さんは、三角関係を露骨に匂わせたりしていたけど、それも物語とは無関係で、ほとんど存在自体が偽伏線だった。創也にしても、Zに襲われそうになった映画部員たちを平気で見捨てた件は落とし前をつけてないので、嫌な性格の奴というレッテルは取れていない。

なんだかんだで後日、創也が内人に「君は僕のワトソンだ」なんて言ったりしたところでエンドロール。って、ちょっと待って! ピエロは?? この映画最大の謎であるかのように散々煽っておいて、放ったらかしのまま終わるの??? まさかピエロが偽伏線だったとは、灯りのついた映画館で呆然としてしまった。ドラッグでもやりながら脚本を書いていたのではないかと疑いたくなるほどの異常さ。2021年の激ヤバ邦画として『すくってごらん』と双璧を成している。
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もうひとつの激ヤバ邦画。どっちにも、ももクロが出ている。

yagan.hatenablog.com

 

 

 

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