ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『すくってごらん』ネタバレあり感想レビュー--百田夏菜子よりも石田ニコルの妖艶なエロスばかりが脳裏に焼き付くカオスな問題作

f:id:yagan:20210313173040p:plain
監督:真壁幸紀/脚本:土城温美/原作:大谷紀子
配給:ギグリーボックス/上映時間:92分/公開:2021年3月12日
出演:尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル、矢崎広、大久保人衛、清水みさと、辻本みず希、北山雅康、鴨鈴女、やのぱん、竹井亮介、川野直輝、笑福亭鶴光

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

スポンサードリンク
 

 

見渡す限り田園風景の真ん中でポツンとひとり佇む、スーツ姿にキャリーバッグを持っている男。荷台が金魚の水槽になっているポップな軽トラが通りかかったので、運転手の若者にスマホの画面を見せて目的地までの行き方を尋ねる。乗せていってあげるよと誘う若者に、自分で歩くからいいと一度は断るが、徒歩だと2時間かかると言われてやむなく助手席に同乗する。

戯画的な誇張表現なのは解るが、地図アプリすらマトモに使えないこの無能が、実は大手メガバンクに勤務するエリート銀行員だったとは全く思えないのが問題。この映画、戯画的な誇張表現が過剰だったり挿入するタイミングが変なため、物語自体もおかしな印象を受ける。低予算からくる未熟さは役者やスタッフの力量でカバーしていて、映画としての体裁が整っている分、逆に物語の歪さが際立っているような。

上司を怒らせて片田舎の支店に左遷された銀行マン・香芝誠(演:尾上松也)。軽トラに乗せてもらって目的地の寮近くに着いたところ、浴衣を着た美女の後ろ姿を目撃し、ふらふらと追ってしまう。この出会いのときに香芝が美女に一目ぼれをすると、公式のあらすじにはあるのだが、そんな感じでもなかったような。謎の美女こと生駒佳乃(演:百田夏菜子)の経営している金魚すくい屋(こんな田舎で経営が成り立つのか?)を香芝が風俗と勘違いするギャグをやっているだけだったが。

この映画、香芝の脳内が早口ナレーションで全て語られる(しかも脳内の単語が巨大なテロップで表示される)うえに、そもそもミュージカルらしい(あんまり踊ってないけど、誰もが急に歌い出す世界ではある)ので歌詞中でも心象を観客に説明してくる親切な作りなのだが、それでも理解が追い付かない。さえない男が謎めいた美女に心を奪われる王道の話が導入らしいのは予想できる。でも、随所で王道パターンから外れる展開を見せるので、本当の狙いが何なのかつかみきれず、戸惑ってしまうのだ。

そもそも、ももいろクローバーZの百田夏菜子が日本でトップクラスのアイドルなのは疑う余地が無いものの、元気溌剌なイメージでデビューから長年やってきたので、男を惑わす妖艶な美女の役はなかなかに厳しい。本人は頑張って役作りしているので努力は買うのだが、固定イメージを刷新するまでには至らなかった。役者への挑戦は歓迎すべきだけれど、早見あかりみたいな路線は難しいんじゃないかなあ。

さて、他人からは距離を取り、ただただ仕事に没頭する香芝。上司の妹・山添明日香(演:石田ニコル)が経営しているカフェバーを訪れ、内装のコンセプトが統一感なくゴチャゴチャしてると指摘し、全面的なレイアウト変更を提案する。あっという間にシックな内装に変わっていたが、近所の住民しか利用しないような立地なのに、デザインを変えただけで客が増えるのだろうか。まあ、劇中で地方の片田舎とされている場所、現実では歴史地区として保護されるレベルの古き良き街並みなので、観光客が来るのかもしれないが。

※ ちなみに意外だったのだが、劇中では舞台が日本のどこにあるのかすら明言されない。訛りと役の苗字から奈良のどこかだと予想はつくが。てっきり金魚が名物の地方都市をPRするための映画だと思っていたが違うようだ。

香芝が東京のエリート銀行マンと知った山添は、途端に興味を抱き始める。カフェバーにはライブ用に楽器も備え付けられているので、山添はギターを持ち出してドラムやベースなどのバックバンドを従えて、東京に行ったが夢破れて戻ってきた想いなどを歌い上げる。山添こと石田ニコルの歌パート、ピアノ一本で勝負している百田夏菜子よりもはるかに豪勢で、特別扱いされてるんですけど。しかも唐突に香芝にキスまでする魔性ぶり。百田夏菜子より石田ニコルのほうがよっぽど妖艶に描かれているじゃないか。どっちがヒロインなんだ?

香芝は吉野に心を奪われているので山添のアプローチに気づかない、って構図にするのが普通なんだけど、香芝は吉野にあたふたしている一方で、山添のアプローチにもメロメロになっているのね。その時点で王道パターンは成立していない。しかも『半沢直樹』出演者としての意地なのか尾上松也が過剰な顔芸で女に慣れていない童貞っぷりを戯画的に表現している。『半沢直樹』演技を『半沢直樹』以外の場所でやると、こうも目障りなのだな。なんかそのせいで、女性を前にした童貞がひとり勝手に盛り上がっているだけみたいだったけど。

脈絡なく電話ボックスが出てきたりする意味不明なイメージ描写の後、香芝はカフェバーでのライブイベントに吉野を誘い、承諾を受ける。当日の昼間に急な仕事が入って香芝がライブの時間に間に合うか危うくなるイベントが発生するが、それが物語と特に関係が無い謎のプロット。少し遅れてカフェバーに着くと、金魚トラックの若者・王寺昇(演:柿澤勇人)が華麗にピアノを弾いていた。

実は王寺は吉野と幼馴染だが、王寺のピアノの腕が天才過ぎるので、吉野がピアノの夢を諦めるきっかけになっていたのだ。王寺の演奏にまっすぐな視線を送る吉野を見て、好きだけど言い出せないんだなと全てを悟るエスパーばりの香芝。って、王寺さあ、演奏中にグランドピアノの上に登ってブレイクダンス踊るんだよ。そんなん天才ピアニストじゃねえよ。『羊と鋼の森』を100回観なさい。

さて、本社から連絡が入り、東京に戻ることになった香芝。吉野の閉ざされた心を開くために(って公式のあらすじに書いてあるけど、映画を観ていてもそんなん解らない)、かつて金魚すくいチャンピオンだった王寺に、次の祭りでの金魚すくい対決を挑むのだった。一応この対決シーンが映画のクライマックスであり、カタルシスが発生する瞬間のはずなんだけど、すいすいと金魚をすくう王寺に対いて香芝は一匹もすくえず。どう考えても逆転は不可能の状態になったところで、いきなり王寺が(なぜか祭り会場にある)ピアノに向かい、曲を弾き始める。

えっ、金魚すくい勝負は? と思ったら、吉野もピアノ演奏に参加して連弾状態に。その曲に合わせて香芝が歌い始めるカオスな状況のまま物語は終了。あとから考えれば、若い2人をくっつけるために香芝が一肌脱いだって意味かと推察できるけど、なんでそれで金魚すくい勝負なのか意味が解らないし、さすがに無理がある。途中で「もうすぐエンドロール」みたいなメタセリフを挿入したり、祭りに来ている人が全員うちわで顔を隠した状態で微動だにしないなど、最後まで過剰な誇張表現の方向性が変

この話を整理すると、正しくは内に秘めた想いを抱える吉野が主人公で、香芝はそんな吉野のために狂言回しとして立ち回っているわけなんだよね。狂言回しの動向をメインに据えて、悩める少女である主人公を脇に置いて謎めいた美女みたいに扱っていたら、そりゃ歪な物語になるか。ともかく、なんかもう石田ニコルが振りまくエロスしか記憶に残っていない。完全に石田ニコルの虜。『王様のブランチ』やめちゃうのかって切なくなるほどには石田ニコルのことばかり考えている。あと、92分の映画なのに途中で休憩タイムが挟まっていたのが最大の謎だった。なんだったんだ、あれ。
-----

 

原作は、これから読みます。

すくってごらん(1) (BE・LOVEコミックス)

すくってごらん(1) (BE・LOVEコミックス)

  • 作者:大谷紀子
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: Kindle版
 

 

 

スポンサードリンク