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【邦画】『ホペイロの憂鬱』--J3サッカークラブの裏方を主人公にした意外な良作

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監督:加治屋彰人/脚本:佐向大、サトウタツオ、加治屋彰人、高橋雄弥/原作:井上尚登
配給:トラヴィス/公開:2018年1月13日/上映時間:92分
出演:白石隼也、水川あさみ、永井大、郭智博、小室ゆら、佐野史郎

 

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68点
完全ノーマーク、意外な掘り出し物であった。話の舞台はJ3のサッカークラブ「ビックカイト相模原」。勝てばJ2昇格という大事な試合前に、次々と小さな事件が起こる。主人公であるホペイロ(用具係)の坂上(白石隼也)が、広報プレスの鬼塚(水川あさみ)とともに、クラブの裏方コンビとして事件を解決していく。

ホペイロの憂鬱 JFL篇 (創元推理文庫)

ホペイロの憂鬱 JFL篇 (創元推理文庫)

 

 

いわゆる「日常の謎」というカテゴリで、創元推理文庫の原作は完全にミステリとして書かれているらしいのだが、映画ではロジカルな謎解きの部分は控えめ。なぜか剥がされるポスターなど、謎自体の面白さは保っているので、矢継ぎ早にいくつも起こる謎と解決の繰り返しが、裏方コンビ(+用務の川上麻衣子)の軽妙さも相まって、なかなか楽しい。

この映画、何よりカメラワークが素晴らしい。試合シーンでは高いところから望遠カメラでボールの動きを追うような、ちゃんと中継っぽい撮影をしている。映画が始まってすぐのハーフタイムの控室のシーンでは、ワンカット長回しによる掛け合いの中で、各キャラクター達の人間関係と、「別にギスギスもしていないがプロ意識が高すぎるわけでもなく、選手も裏方も適度に仲のいい」というJ3らしいクラブ内の雰囲気を表している。

このハーフタイムのシーンが、映画後半の同じ場所での同じ長回しシーンと対比され、人間関係の小さな変化が各人の行動によって示されることで感動に繋がるのだが、それは実際に観てほしい。ともかく、全体的に多めの長回しも、あるいはカット割りも、技巧に酔っているわけではなくきちんと意味がある上で行われている。走るハイエースを後ろから撮るだけでも、多くの情報量を詰め込んでいるし。

主人公のホペイロが基本的に低テンションなのがいい。「お断りします」「同感です」といったドライな返しが、作品内の雰囲気を変に熱くしないようにしている。他の人物も適度にキャラの立った性格付けで、世間的には引退したと思われている元日本代表のメンバーだけがちょっと馴染めていないとか、絶妙である。試合が近づき謎が明かされるにつれて人間関係も少しづつ変化していくので、観ているこちらも自然と盛り上がっていく中で、最後の試合が始まり、そしてハーフタイム控室の長回し名シーンへとつながる。

個人的な好みではあるが、ホペイロが自身の仕事について熱く語るシーンが前半にあるのと、感傷的なシーンになるといかにもな音楽が流れるところがちょっと蛇足かなとは感じた。まあそれでも、この手の映画ではずっと少ないほうだが。ホペイロが大声で感情を吐き出すのは、最後の最後に1回だけにしたほうが、感動は大きくなると思ったが。

なお、ここでのホペイロの叫びの中で「靴を磨くのは誰にでもできます!」という部分は明らかに本心ではない。しかしあえてそのように言っているところが、次の発言者の中身ともシンクロし、情熱を増幅させている。

変な後日談をくっつけていないのもサッパリしていて良かった。裏方コンビが日本中のサッカークラブを渡り歩くシリーズものになったらいいなあとまで思ってしまったし(原作は、どんな感じなんだろか)。この作品、粗製乱造される地方発映画の中に埋もれさせちゃいけない良作であり、もっと話題になってほしいと心から願う。

 

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