ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『耳を腐らせるほどの愛』ネタバレ感想レビュー--「NON STYLE」石田明は漫才のフォーマットでしか笑いが作れないのだな

f:id:yagan:20190616223809p:plain
監督:豊島圭介/脚本&原案:石田明
配給:KATSU-do/上映時間:90分/公開:2019年6月14日
出演:井上裕介、森川葵、八嶋智人、黒羽麻璃央、山谷花純、信江勇、長井短、石田明、村田秀亮、菅原永二、小木茂光、MEGUMI

 

スポンサードリンク
 

 


47点
お笑いコンビ「NON STYLE」の石田明が脚本を書き、相方の井上裕介が主演した吉本興業製作の映画。もっとも井上裕介は主演と言っても殺人事件の死体役で、誰にも聞こえていない声でたまに物語にツッコミを入れる役回りなのだが。ともかく、漫才のネタには定評のある石田明の脚本家としての実力がどれほどなのか、本作によって判断できるわけである。結果から言うと、酷いものだったが。

東京湾に浮かぶ唯一の無人島・門喜島(まずここでいろいろと引っかかるがスルーする)へのツアーで立派なホテルに集まった面々。その中の一組、探偵の真壁(八嶋智人)と助手(菅原永二)の部屋のエアコンが壊れているため、ホテルの管理人(村田秀亮)が団扇でゆっくり仰いでいる。夏なのに暖房が51度の設定のまま止まっているだの、客席が満室なら管理人室はどうだと聞いたら幽霊がわんさか出るだの、ギャグのつもりのつまらない応酬が続く。ギャグだとしても、51度というチョイスは無いよなあ。

で、このエアコンが故障しているとか幽霊が出るとかの件、伏線もなんでもなく、物語とすら無関係な冒頭シーンにしか登場しない。つまり、単発のギャグのために、そういう突飛な設定を出してきている。これ、一応は犯人当てミステリなのだが、エアコンが故障しているなんて定番の伏線じゃないか。わざわざそんなセリフを無理に挟んでいるなら、何かあると思うだろう。ミステリってのは、そういう何気ない部分が伏線となってラストで回収されて謎解きが行われるものなのに。逆にミスリードというわけでもなく、観客を混乱させていることにすら気づいていないと思われる。

被害者役の井上裕介はロビーのソファの後ろで、頭から血を流して倒れているものの、たまに起き上がって観客に向かって喋りかけてくる。キメ顔でウインクしたりとナルシストキャラを当たり前のように出してくるのだが、えっとさあ、井上裕介も鈴木鈴吉という役名の付いている物語上の人物なんだよね。さらには、刑事など他の宿泊客たちは、この死体の顔が尋常じゃないブスである前提で話が進んでいる。ナルシストキャラもブスいじりも、バラエティ番組でのノンスタ井上のキャラクターなんだけど、それを観客の共通認識としているのはいかがなものか。ノンスタ井上を一切知らない人が初見で「めっちゃブスだ!」って思うほどの顔かなあ。

この話、映画である以前に、コントとしても成り立っていない。井上裕介をTVでのキャラクターと同様の存在として扱っている時点で、それは漫才の方法論であり、現実とは切り離された空間であるコントや劇映画では通用しないはず。「NON STYLE」ファンだけに向けている作品なんだと割り切るのならば、そこはいいとしよう。しかし、出演者の黒羽麻璃央について「2.5次元舞台の俳優なら大人気になりそうなイケメン」とか言っている。ただの楽屋オチなんだけど、(『99人の壁』でご一緒したので言い辛いが)黒羽麻璃央って楽屋オチが通用するほど誰もが知っている有名人だろうか。あと、劇中で黒羽麻璃央はモテない役なのだが、この一瞬のギャグのためだけのセリフと矛盾しているのはどうなのか。

まあ、物語の構築がどうこう以前に、普通にギャグが面白くないのが致命的なんだけど。小木茂光が黒柳哲という役名で、そこから『徹子の部屋』いじりを延々とするんだけど、レベルが低いでしょ。たしかに即座にツッコミが入れられる漫才なら面白くなるかもしれないけど、何度も言うがこれは映画だからなあ。小木茂光が『徹子の部屋』っぽい部屋でソファに座って紅茶を飲んでいる妄想が映像になるわけだけど、この絵面自体を面白いものとして提示してくることがツラい。実質主役の八嶋智人がいつものようにちょこまか動き回ることでなんとかギャグを成立させようと奮闘していたけど、無残な結果になっていた。

ここから先の物語は説明するのも不毛なのでいろいろ飛ばして駆け足で行います。被害者の鈴木は「東中野たとえ話研究会」の部長で、部員の女性3人全員と恋人関係にあったことが判明する。そのうちのひとりが書いたK計画のメモが出てきて、Kとは「殺す」のことだー、こいつが犯人だー、と思いきや、実はKとはキスのことでしたという、例によってつまらないギャグで終わる。そして、「今言うことではないかもしれませんが」と管理人がおずおずと会話に入ってきて、ロビーに監視カメラがあると打ち明ける。で、なぜ鈴木が死んだのかくだらない理由が判明して、これまでやってきたことは何だったんだよチャンチャン、で終わり。

今までの話は全て無意味でしたってオチは映画でやると大惨事になるのは常識なんだけど、石田明が知っているわけもなかった。石田明は漫才のフォーマットでしか笑いが作れないんだな。会話の応酬による瞬間的な笑いは得意かもしれないが、起承転結のある物語については、創作する以前にそれがどういうものなのか意味が解っていないのだと思う。加えて、登場人物の造形を一から創作することもできないので、既存のタレントイメージを流用した楽屋オチに頼ることになってしまう。まあでも、『洗骨』を撮ったゴリの例もあるので、10年後に期待か。

 

スポンサードリンク