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【邦画監督】今泉力哉監督作品レビュー--言葉にできない感情を映像で表現するダメ恋愛マイスター

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今泉 力哉
(いまいずみ・りきや)
1981年2月1日 福島県出身

 

さまざまな種類の恋愛感情が交錯する群像劇を得意とし、監督本人は「ダメな恋愛映画ばかり撮っている」と自称している。劇中人物が持つ恋愛感情は言葉で表現できないような曖昧さがあり、それを「これは言葉では表現できません」とそのまま提示することで、共感の嵐を呼ぶことに成功している。
映画とは映像表現であることに意識的で、人物の立ち位置や動きによって感情や人間関係を叙情を加えながら示す技法に長けている。そのため、今泉作品の真価はロングショット、特に空間が開けた外ロケによって如実となる。

 

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『サッドティー』
監督&脚本:今泉力也
配給:SPOTTED PRODUCTIONS/上映時間:120分/公開:2014年5月31日
出演:岡部成司、青柳文子、阿部隼也、永井ちひろ、國武綾、二ノ宮隆太郎、富士たくや、佐藤由美、武田知久、星野かよ、吉田光希、内田慈

73点
狭い室内における動きの少ない数名の人物による会話を、教科書通りのような切り返しショットによって捉えていく。そのような一見すると無機質な空間の中から、各人の内包する悪意が無いからこそ手に負えない"恋愛感情"なるものが徐々に染み出してきて、気がつくと足元がグチョグチョになっているような感覚を覚える。
その一方でエンタメ的な可笑しさも兼ね備えており、唐突に発生する映像ギミックも笑いを誘う。全てが計算され尽くしたラストの海岸のシーンに至っては、起こっている事態とは裏腹に、なぜだかスッキリとした爽快感がある。

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『知らない、ふたり』
監督&脚本:今泉力哉
配給:CAMDEN=日活/上映時間:106分/公開:2016年1月9日
出演/レン、青柳文子、ミンヒョン、韓英恵、JR、芹澤興人、木南晴夏

68点 

yagan.hatenablog.com

 

 

 

『退屈な日々にさようならを』
監督&脚本:今泉力也
配給:ENBUゼミナール/上映時間:142分/公開:2016年11月19日
出演:内堀太郎、矢作優、村田唯、清田智彦、カネコアヤノ、松本まりか

64点
「実は、この人とこの人は知り合いでした」というような群像劇にありがちな偶然の繋がりが乱発するのだが、本作の場合は複雑な相関図が段々と浮き上がってくるにつれて、世界の不条理さを創出しているみたいである。途中で突拍子もない方向に話が転がるのも含めて、どうしようもなく世界は大きな力の支配下に置かれているのだと説得されているかのよう。余韻というレベルを超えて投げっ放しの件が多数あるのは気になったが。なんとなく、演じている役者の方達が皆、楽しそうに思えた。

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『パンとバスと2度目のハツコイ』
監督&脚本:今泉力也
配給:「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会/上映時間:111分/公開:2018年2月17日
出演:深川麻衣、山下健二郎、伊藤沙莉、志田彩良、安倍萌生、勇翔、音月桂

71点
初恋の人と偶然再会した女性が主人公だが、特に大きな事件は起こらず、淡々としたまま話が進む。そのため人によっては物足りなさを感じるかもしれない。日常エピソードの中に「片思いの恋愛感情は終わりにできない」という感覚を普遍的なものとして落とし込むことで、好意的な共感を呼び起こそうとしている。洗車中のバスやコインランドリー、あるいは駐車場から見る夕日など、映像としての美しさをメインに押し出していて、純粋な心地よさに浸れる。

パンとバスと2度目のハツコイ
 

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『愛がなんだ』
監督&脚本:今泉力也/原作:角田光代
配給:エレファントハウス/上映時間:123分/公開:2019年4月19日
出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、穂志もえか、中島歩、片岡礼子、筒井真理子、江口のりこ

81点
ひとりの男に対して異常に執着し、その猟奇性が最後までまったく変化しないという、恋愛映画の主人公としては致命的に何かが欠落している女をチャーミングで愛らしいキャラクターに仕立て上げてしまうところに、今泉監督の無垢ゆえの恐さがある。
他の今泉作品に比べて心の声や会話の中で心象を説明するセリフが多いので、一見すると解りやすい(これがヒットした要因のひとつだと思う)のだが、実のところ微妙にずれていていることで、より言葉で表現できない内面の異質さが際立ってくる。
今回も外ロケ、特に夜の路地でのシーンには目を見張るものがあり、中でもコンビニ前での缶ビールを飲みながらの会話シーンは、後世に語り継がれる魅力がある。

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『アイネクライネナハトムジーク』
監督:今泉力也/脚本:鈴木謙一/原作:伊坂幸太郎
配給:ギャガ/上映時間:119分/公開:2019年9月20日
出演:三浦春馬、多部未華子、貫地谷しほり、原田泰造、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、成田瑛基、八木優希、こだまたいち、MEGUMI、柳憂怜、濱田マリ、藤原季節、中川翼、祷キララ、伊達みきお、富澤たけし

68点
原作は伊坂幸太郎作品には珍しく"普通の人"しか登場しない連作短編集で、各々の短編の発表時期や媒体が異なるため、一本の話でまとまっているわけではない。映画化においても、原作の点在しているエピソードを綺麗に繋げるのではなく、バラバラと散りばめたままで提示している。個々の魅力的なエピソードが無秩序に配置され、そこからさも偶然を装った繋がりが発生するため、夜空に浮かぶ星座のような美しさが形取られていく。
劇的な出会いを映画的な手法で演出しておきながら、劇的であることが重要ではないと説き、一方の別れを日常の小さな積み重ねから発生させている。映画的なものを否定して、映画的ではない日常性(好きな人の乗るバスを追いかけるよりも転んだ子供を優先する、など)に重きを置くスタンスは原作を踏襲しているからだが、今泉監督の今後の指針となりえる可能性もある。
ひとつの作品としてのまとまりを考えれば、ボクシングの試合を人物相関の中心に置いて、路上ミュージシャンを無くしたほうが良かったかもしれないが、些細なことだ。例外的に日常から浮いている矢本悠馬の存在が、伊坂幸太郎と今泉力哉の世界を繋げていた。
(2019年9月23日 追記)

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『mellow』
監督&脚本:今泉力哉
配給:関西テレビ放送=ポニーキャニオン/上映時間:105分/公開:2020年1月17日
出演:田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、白鳥玉季、SUMIRE、山下健二郎、ともさかりえ、小市慢太郎

77点
男性的なエロスと少年っぽい無垢さが混在する田中圭を中心に置き、その周囲に複数の女性を配置することで、片思い模様の新たなバリエーションを次から次へと繰り出していく。いずれもがそれだけで長編映画になりそうな面白く素敵な関係性であり、アイデアの浪費に対して勝手に心配になるほど。室内での固定カメラによるシーンが主だが、人物の位置から小物の配置まで、まるで西洋近代絵画のように計算されつくされていて圧巻。
(2020年1月28日 追記)
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『his』
監督:今泉力哉/脚本:アサダアツシ
配給:ファントム・フィルム/上映時間:127分/公開:2020年1月24日
出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香、外村紗玖良、中村久美、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子

61点
同性愛カップルを軸にして、過去の価値観によって構築された社会システムの歪みを露わにしていく。裁判のシーンや子育ての描写に顕著なのだが、構造が図式的であり、現代社会批判の範疇から抜け出せていないのが物足りないところ。決定的な悪人が登場しないがゆえの心地よさは充分なものだが、わざわざ今泉監督にしてもらう問題提起でもないような気もする。
(2020年1月28日 追記)
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