監督:池田千尋/脚本:高橋泉
配給:プレシディオ/上映時間:93分/公開:2019年9月6日
出演:上白石萌音、山崎紘菜、大西礼芳、長田侑子、沖田裕樹、三河悠冴、渡辺真起子、宮川一朗太、神保悟志、山本耕史
※ 文中で直接的なネタバレはしていませんが、未見の方はご注意ください。
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72点
年に何度かある、特に話題にもなっていないのでまったく期待せずに何となく観てみたら予想外に面白かったという、掘り出し物の一本。こういうことがあるから、ネットとかの評判から判断して観る映画を取捨選択することができず、鑑賞本数が膨れ上がってしまうのだが。
とは言っても、監督は池田千尋、脚本は高橋泉、主演は上白石萌音と山崎紘奈とメジャーな布陣が揃っていて、けして低予算のインディーズ映画ではない。ちなみに、主演の2人は2011年に第7回東宝「シンデレラ」オーディションの審査員特別賞を揃って受賞している(しかし、なぜか配給は東宝ではない)。撮影時期が判然としないのだが、どうも『君の名は。』公開の前から企画がスタートしていたらしいので、同時期に上白石萌音についたイメージにそぐわないからと公開を遅らせたのではないかと邪推してしまう。本当のところは解らないが。
そう、この映画、他の映画とはまったく違う上白石萌音が見られる。髪を赤く染めるなど奇抜な格好をして、早口でまくし立てる学生起業家の役である。ともすれば関わり合いを避けたくなるような人物になりそうなところ、とにかくこの上白石萌音がチャーミングなのである。彼女の背の低さや丸くて地味めな顔立ちなど、アイドル女優には不向きな身体的要素が、本作のキャラクターではことごとくマッチしていて、愛くるしくて仕方ない。まさか、こんなハマり役があったとは。
ストーリーの骨格は単純なもので、大学生起業家の光(上白石萌音)と、大企業OLの希(山崎紘奈)という、何もかも正反対の2人が嫌々ながらもコンビを組んでプロジェクトを実現させようとするバディものである。まず、女優2人のビジュアルの違いからして、対称性が目立つ。背が高く棒立ちになりがちな山崎紘奈の周囲をピョンピョンと飛び跳ねるちっちゃな上白石萌音という、その絵面だけで楽しく、満足してしまう。
構成的に巧いのは、この2人はあくまで対等なんである。光のほうを非現実なほどエキセントリックな存在にして、平凡な一般人である希が感化されていくみたいな、ありがちな話にはならない。希はもちろんのこと、光のほうも意外とネガティブで何度も失敗しては落ち込むし、自分にはないものを持つ希に対してある種の憧れを持っている。なので、互いに未熟な部分を補う形で、2人とも成長していく。バディムービーとして、極めて真っ当なために嫌味がない。単純なようで、これを邦画でできる人がどれだけいるかと考えれば、やはり偉大な作品であろう。
世の中には、大学生起業家に対して良いイメージを持っていない人も多いであろう。同様に、安定志向の大企業OLを小馬鹿にする人もいるであろう。そうした両者それぞれへの負のイメージを少しは変える力が本作にはある。ボクも、大学生起業家なる存在に感じるしゃらくささは、ただの偏見じゃないかと払拭できそうな気にはなった。別に以前から上白石萌音を崇拝しているのが理由ってわけでもなく、いろいろと苦労があるんだなあと。
劇中で立ち上げるプロジェクトが、本当にいけそうなんじゃないかと思えてしまうものであったのは、感心したし驚いた。光が頭の中を整理するようにホワイトボードにプロジェクトを書き殴っていくのだが、それだけで説得力あったし。希が「現実には難しい」と指摘するところまで含めて、なかなかリアルであった。その後のプロジェクト実現へ向けての流れ、特に協力者への説得方法などで若干のキレイゴトはあったが、せめて映画の中くらいではこんなキレイゴトを信じていたいという気持ちのほうが勝ったので無問題。
とにかく素晴らしいシーンがいくつもあるので語り尽くせないのだが、ひとつだけ。2人が路地で言い争いの喧嘩をするシーンがある。その喧嘩をする場所、というか背景として映り込んでいるアレの使い方が巧過ぎる。現実に存在するアレをストーリーや2人の感情とリンクさせて心象風景のように見せていることだけで最高のアイデアだが、何よりも「今この瞬間でないとできない刹那的な表現」という点で、リアルタイムで鑑賞すべき映画であると断言できる。是非、多くの人に映画館で確認してほしいです。公開館は少ないけど。
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