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【邦画】『知らない、ふたり』--今泉力哉監督は常に、恋愛以前の「好き」という感情を追究している

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監督、脚本:今泉力哉
配給:CAMDEN=日活/公開:2016年1月9日/上映時間:106分
出演/レン、青柳文子、ミンヒョン、韓英恵、JR、芹澤興人、木南晴夏

 

68点

『サッドティー』『鬼灯さん家のアネキ』などの作品がある今泉力哉監督は常に、恋愛以前の「好き」という感情を追究している。モト冬樹に勘違いからなる「好き」の感情を植え付けさせることで延々と妙な緊張感を持たせた『こっぴどい猫』など、コメディタッチを織り交ぜつつも「好き」とは一体なんなのか、常に自問自答している。

本作『知らない、ふたり』は、若い男女7人による「好き」の感情が静かに重なり合い変化していく群像劇である。一応、韓国人が多数出演し、それゆえ字幕もいっぱい出てくるが、あんまりその辺は本作の趣旨とは絡んでこない。出演者が先に決まってそこから監督に「何か撮りませんか」と話が行ったのだろうか。

物語の諸端となるのは、とキム・レオン(レン)とハン・ソナ(韓英恵)が公園のベンチで印象的に出会うところから。そこからお互いともに気になり始めるが、レオンは過去の経験から他人に「好き」と伝えることをせず、ソナにとっては相手がどこの誰なのかもわからず「また会えるかも」と近所の公園をさまようばかり。それぞれの「好き」の感情が宙ぶらりんのままになる。

レオンと同じ職場で働き、彼のことが気になっている秋子(青柳文子)の目線が、観客の目線の代わりとなる。というのが群像劇の定石のはずだが、物語が進むにつれて秋子がけっこう変な人だってことが判明してくる。自分がフッた男と飲みに行き、毎晩レオンを尾行していることを普通に話して、「怖いです」と言われて本気で「え?」と驚く。この辺が今泉監督の天然なのかワザとなのかわからないが、独特のコメディ気質なんだと思う。普通、観客目線の役割の人って、現実とか常識とかの基準として存在させるのが当たり前だから。北野武監督『アウトレイジ ビヨンド』でも、全員が悪に染まっている中で観客目線の代わりであった松重豊だけは最後までマトモなままだったのに。ていうか例えがおかしかったですね。いきなり『アウトレイジ ビヨンド』って。

まあともかく、今泉監督の過去作に比べてコメディ要素は少なく、主に秋子のちょっと変わった行動のみに笑いが起こる。ほかは重かったり軽かったり、積極的だっだり消極的だったり、様々な「好き」が緩やかに交差する。恋人がいるにもかかわらず、すぐに「好き」と伝える人と、かたくなに「好き」と伝えない人が混じっている世界なのに、なぜか緊張感は少なく穏やかにさえ感じる。

さて、物語の諸端はレオンとソナの出会いと先ほど書いたが、実は時系列を整理していくと、2人の「好き」が収束していく時期が大きくズレている。そんなわけで2人の「好き」は互いに交わることもなく、よって「恋愛」という着地には向かわず、別の経験値として個々に取り込み、何かしらの成長を得る。世界は、そんな「好き」で溢れている。って、こんなまとめ方でいいんだろうか。

 


 今泉力哉 過去監督作

「恋愛」以前の「好き」が気になる方、どれもオススメです。あと、どれも笑えます。

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