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【邦画】『カニを喰べる。』--日本でロードムービーを撮るのは難しい

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日本は、その地理的条件から、ロードムービーを撮るのが難しい。適度に狭く、南北に細長い島国のため、たとえば「余命わずかだけど死ぬ前に一度でいいから海が見たい」と思ったところで、まあ車を1日走らせれば叶ってしまう。スタートが秘境みたいな山奥だったり、車の調達にやたら時間がかかったらどうなんだという重箱の隅をつつくような反論には、それはもはやロードムービーとは別ジャンルだと返答しておく。

最近では古厩智之監督『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』が、工夫を凝らして日本におけるロードムービーを成り立たせていたが、それくらいかなあ。三浦友和が死にそうな妻を連れてワゴン車で日本のあっちこっち行くひどい映画もあった。タイトル忘れたけど。

さて、本作『カニを喰べる。』は、働かずブラブラしている2人の若者が、なんとなくカニを食べたくなって東京から富山まで軽トラを走らせるというロードムービーである。その設定を聞いて誰しも真っ先に思うのが、「距離、短くね?」ってことだろう。もちろん毛利安孝監督だって知恵を使っている。まずは古厩監督作と同じように、主人公には金を持たせない。高速道路を使ったり、電車に乗ったりしたら話がそこで終わっちゃうから。交通機関が充実しているというのも、日本でロードムービーが難しい理由の一つだ。さらに、ナビも地図もないので、どこ走ってるんだかよく解らないというのも、工夫である。

あと、これはロードムービー云々ではないが、「演技のできない人には体を動かさせろ」という基本原則にのっとり、主人公の2人はやたら動き回る。走って跳んで転んで車に飛び乗る。染谷俊之、赤澤燈という若手イケメン俳優(まったく知らない人だが、舞台挨拶付きの上映時には若い女性が多くいたので、それなりに人気なのかもしれない)のアイドル映画として観る人ならば、満足したかもしれない。ただ、いくら基本とはいえ、本当にそればっかりなのもどうかと思ったが。

で、長々と書いてきたけど、この映画で、ロードムービーの魅力を味わうことはできないたった唯一の、しかし最大の理由がある。主人公が景色の中を軽トラで走行しているシーンが無いのだ。軽トラが景色の中を走る引きの絵では運転席の人間は映らず、逆に走行中の車内のシーンでは窓の外は真っ白だ。主演2人とも免許を持っていないとのことなので仕方ないのだろうが、でも「主人公」+「走行中の景色」の絵が無いのにロードムービーを名乗っちゃいかんだろう。例外として、最後のほうで軽トラを失った2人は拾った自転車で激走するのだが、唯一ここだけロードムービーとして成立していた。

あと、主人公2人も特に成長せず、かといって出会う人々に何かを与えたということもなく(そもそも、出会う人が少なすぎる)、さらには完全に偶然に産物による達成感のないカニ食で「目的、達成」と無理矢理に幕引きするなど、なんか消化不良な映画であった。劇中に出てくる地名が全て県名(富山、新潟、群馬、秋田etc.)でしかないというのもなあ。そこが新潟の何市なのかによって、自転車で走った距離とか色々わかるのになあ。後半は距離や時間の感覚が全く伝わってこなくこれもまたロードムービーとして減点だろう。(主人公と観客が同様に場所がわからないというのはいいが、主人公は知っているのに観客には伝えないというのはルール違反)

ま、日本でロードムービーを撮るのは難しいってことで。ただ、ちゃんと免許持ってる役者が実際に運転したほうがいいとは思います。