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【邦画/アニメ】『映画大好きポンポさん』ネタバレあり感想レビュー--「死んだような目」こそが、あらゆるクリエイターに必要な資質なのだ

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監督:平尾隆之/原作:杉山庄吾/アニメーション制作:CLAP
配給:角川ANIMATION/上映時間:90分/公開:2021年6月4日
出演:清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一

 

注意:文中で終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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舞台は映画の都ハリウッドではなくニャリウッド。主人公はタイトルに名前のある大物映画プロデューサーのポンポさんではなく、彼女のもとで制作アシスタントを務める青年ジーン・フィニー(演:清水尋也)。アニメだから可能な過度にデフォルメされた「死んだような目」をしているジーンは、映画監督をしたい気持ちがありつつ自分みたいなものには無理だと諦めかけていた。そんな折、ポンポさん(演:小原好美)から新作映画の15秒CMの製作を任される。完成したCMから才能を確信したポンポさんから、ジーンは大作映画の監督に大抜擢される。

※ ちなみにここで「ジーンの才能を見せつけるCM」の映像が実際にスクリーンに流れる。これ、実写で同じことをやっても説得力を出すのは到底無理で、アニメだからできることであろう。

原作はpixiv初出の漫画で、単行本は全3巻(ほかにスピンオフなど複数あり)が刊行。映画は第1巻の内容に沿っている。物語は「ジーンが初監督作品を成功させるまで」であり、原作ではあっさりとしている実際の撮影や編集の様子にたっぷりと尺をかけ、オリジナルの登場人物や新たなトラブルもふんだんに加えて、ひとつの大きな成功譚にまとめている。話の内容だけなら、普遍的な成り上がりの話である第1巻よりも、一度は成功者となったもののめんどくさい芸術家気質のジーンがさらなる難題に悪戦苦闘する第2巻、第3巻のほうが興奮するのだが、脚本の主軸を太い1本に絞ったのは英断であろう。

 

これ、端的に言えば「最初から才能を持っている者が自分の能力を開花させる話」である。一歩間違えればいけ好かなくなるところを、本作は丁寧にフォローしている。まずジーンは、学生の頃から毎日映画を観てはノートにまとめ、それゆえ映画通となった努力型の秀才である。才能が天性のものではないだけでも好感度が高いが、しかもジーンの場合は、大きな目標のためというよりも、自分では制御できない衝動によって映画ノートを執り続けているのである。そのため本作では、一心不乱にノートにシャーペンを走らせるジーンの描写は、鬼気迫る狂気を持って表現されている。

ジーンは一般社会に適応できない落伍者であり、それゆえクリエイターの才能があるとされている(これは原作から続く一貫したテーマである)。何よりポンポさんがジーンを雇った理由は「死んだような目」をしているからであるし。ジーンよりは幾分かマイルドだが、主演女優に抜擢されたナタリー(演:大谷凜香)も、映画オリジナルキャラである銀行員のアラン(演:木島隆一)も、社会の主流になじめないからこそチャンスをつかむことに成功している。サブプロットも、テーマは共通しているのだ。

大物俳優に無茶ぶりをしたりする撮影シーンも面白いが、本作がもっとも盛り上がりを見せるのは、撮影のあとの編集の段階に入ってからである。まずはカットを撮影順に並べ、次に「ここをこうしたら」と順番を入れ替えたりバッサリ切ったりと、より魅力的になるように試行錯誤していく。この描写自体の時間は短いが、編集を行うジーンの脳内思考や編集の様子を具体的に見せられることで、このあとにくるジーンの苦悩も掴みやすくなっているわけだ。

編集しては納得いかず一から繰り返し、ノイローゼ気味になるジーン。そのため試写は遅れ、新人監督で大丈夫なのかと噂が飛び、融資の話は減っていく。しかしジーンは「シーンが足りない。追加撮影をしたい」と言い出す始末。ジーンの芸術家気質からくる独善的でもあるこだわりが、数多の人間が関わっている総合芸術である映画の完成に支障をきたし始める。ポンポさんはその折り合いをつけるため奔走する。大物映画プロデューサーの面目躍如であると同時に、優柔不断なジーンを振り回していたポンポさんという構図が後半に逆転することで、それぞれの成長も表している。

この映画の編集シーンは、亜空間を飛び交うフィルムの描写に編集ソフトのモニター画面が重なるような、ちょっとしたドラッグイメージ演出である。ラストでは、このイメージ空間の中で、覚醒したジーンが光る刀でフィルムをバッサバッサと斬りまくる。輝きの無い「死んだような目」が、輝きの無いまま見開かれていくのは、アニメだからこそできる圧倒的な表現であり、ジーンの狂気を際立たせる。「生き生きとした、死んだような目」なんていう矛盾した状態、これこそが、あらゆるクリエイターには必要不可欠な資質なのだ。
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