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【邦画】『淵に立つ』感想レビュー--想像して欲しい。自分の家族に古舘寛治がいたらどうだ。

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監督・脚本・編集:深田晃司
配給:エレファント・ハウス、カルチャヴィル/公開:2016年10月8日/上映時間:119分
出演:浅野忠信、筒井真理子、古館寛治、篠川桃根、太賀

 

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85点
本人が明言している通り、深田晃司監督は常に家族の話を撮っている。監督曰く「家族とは、不条理です」とのことだ。確かに半ば意志とは無関係に他人との繋がりを強制される家族という制度は不条理極まりない。有名人ともなると「容疑者の母親だから」というだけでバッシングされたりする。別に政治批判をしたいわけではないが、今の日本の政権が「画一化した家族の形」を国民に押し付けようとしているのは気味悪いとは思っている。家族の形なんてそれぞれのケースに応じて最適だと思うものを自分で選ぶよ、国なんかに強制されたくねえよ。

さて本作『淵に立つ』は、とある家族の中に「異物」が闖入してくることで、家族がとっくに崩壊していたことへの気づきを与える。そこまでは深田監督の出世作『歓待』と同様であるが、その後は大きく異なる。『歓待』は「異物」がグチャグチャにかき回すことで最終的には家族が再生するところで終わるが、『淵に立つ』にそんなハッピーエンドは用意されていない。

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自宅で小さな工場を経営する鈴岡利夫(古舘寛治)、妻の章江(筒井真理子)、小学校2年生(たぶん)の蛍(篠川桃音)による3人家族。まず、家族の中に古舘寛治がいることに強烈な歪みを感じる。『歓待』の「異物」役で注目された古舘寛治は、今や多くの映画に出演している名バイプレーヤーとなったが、どこで見ても強固な「異物」オーラを放っている。しかも距離感ゼロで人身に入り込んできて、まるでネットリとしたケロイド状で全身でまとわりつくかのような、耐え難くも逃れられない不快な「異物」。もし古舘寛治と直に出会ってしまったら、すぐにシャワーを浴びたくなると思う。そのため、映画でもドラマでもCMでも、古舘寛治はほとんどの場合は最初から「異物」としてキャスティングされている。

そんな古舘寛治が父親役だ。想像して欲しい。自分の家族に古舘寛治がいたらどうだ。父でも、夫でも、息子でもいい。そんな「異物」と繋げられて家族だと強制されて、やっていけるか。年に何度か会うだけの親戚のおじさんだとしても、相当なものなのに。本作では妻の章江は「利夫さん」と呼び、業務上の最低限の会話しかしないようにしているが、仕方ないではないか。やっぱり、家族とは不条理だ。

そして本作では、古舘寛治は「異物」の闖入を受け入れる側だ。しかも「異物」役は浅野忠信である。たしかに昔から「異物」感はある人だが、まだ乾いた感じがしていて、受け入れやすい。特に章江からすれば古舘寛治と同居する中で急に浅野忠信が現れたら、そっちに何かを求めるのも道理だろう。「異物」vs「異物」の好感度勝負だが、ケロイド形態の古舘寛治に勝ち目はない。

だが浅野忠信だって結局は「異物」だ。家族が崩壊していることを気づかせるために現れたわけだ。浅野忠信は、かなり言葉通りの意味で家族を崩壊させたうえで姿を消す。さて、本作の重要性はここからだ。前述した通り、なんせ家族は再生しないのだから。

8年後となる後半パート。この家族は、消失した「異物」に囚われたままだ。古舘寛治は「8年前、俺たちはやっと夫婦になった」というセリフもあるように、「異物」によって家族の再生が行われたと思い込もうとするが、妻から一蹴されて終わる。後半において家族の再生は、ことごとく拒否される。

後半ではもうひとつ、家族の繋がりとは何かを問いかけてくる試金石のような存在も登場する。この存在に対する接し方で、家族に対する各人物の思いの変化が見て取れる(工場の機械を操作する彼の後ろに立っている古舘寛治という恐怖映像など)。そして衝撃のラストシーン、この家族は最後の最後に繋がりを得たのか、それとも結局は他人であったことを再確認したのか。それは不明だが、古舘寛治がケロイド状から個体になったことだけはわかった。

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