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【邦画】『何者』感想レビュー--「就活」をテーマにしていながら、会社というものの存在感の小ささたるや

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監督・脚本:三浦大輔/原作:朝井リョウ配給:東宝/公開:2016年10月8日/上映時間:119分
出演:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生

 

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74点
本作は「就活」と「twitter」の2つの大きな要素から成り立っている。どちらも世代だったり環境によって、距離感や捉え方が人それぞれ大きく異なるものである。なので、作品を評する前に自分自身はこの2つについてどういうスタンスなのかを明らかにしないといけなくなっている。まあ、そんなこと言ったら森羅万象なんだってそうなんだけど、「就活」も「twitter」も、生まれた年がひとつ違うだけでも捉え方が変わるような微妙なものだからなあ。いいとこついてくるなあ、とは思う。

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

 

 

まず「就活」(新卒一括採用)について。ボクが「就活」を実体験したのは10年以上前だが、すでに終身雇用制度は崩壊し始めていて、就職先によってその後の人生のすべてが決まるという感じではなかった。なので、向いてなかったら辞めればいいと思っていたし(そして実際に辞めたし)、「一生に一度だけある期間限定の祭」みたいな感じで「就活」していたのだが、今はその傾向がもっと強いのではないか。本作中で内定が決まった人物が「自分の全てを肯定されたみたい」と大喜びしていた数日後に「結局は、俺って就活がうまいだけだったのかも」みたいなことを言うあたり、「就活」に強固な絶対性があるようではない。

本作中において、登場人物たちの「就活」に対するスタンスは、そのまま「自分がこういう人間である」というアピールの場になっている。「就活」をするかしないか、好きなことに関係する会社を受けるか避けるのか、大手志向なのかあえて小さい会社に的を絞るのか。仲間内で開示する情報の取捨選択を含めて、結局はアピールだ。それも会社に対してではなく、周囲の小さなコミュニティに対して。務める会社よりも仲間のほうを気にするというのは、今の若者のリアルなんだろうな。それにしても、「就活」をテーマにしていながら、会社というものの存在感の小ささたるや。会社に自己のほとんどを委ねると悲惨な末路になるのは、ここ最近のニュースから読み取れるし、まあ正しい指南ではあるか。

もうひとつ「twitter」について。実は原作を単行本が発売した2012年に読んでいて、「twitter」依存状態であったボクは、読了後は鋭利なナイフで心を抉られたかのように落ち込んだ。なので4年前と同じナイフを突きつけてくるんだろうなと身構えて映画館に足を運んだのだが、序盤で別の衝撃が走る。どうやらこの4年の間に、「twitter」がSNSの主流では無くなっているようなのだ。「Facebook」や「Instagram」のほうが主流で、ボクからしたらSNSとは別の種類のものだと思っていた「LINE」が、世間的にはSNSとはこういうものだという認識になっている。「LINE」は登場人物の口から「向いてない」と言われ、その後も申し訳程度にしか登場しない(積極的に登場すると、物語の意味が変化してしまうから)。なんか「twitter」メインでやってるのはちょっと変わっている人ということになっている。原作にはない注釈だ。たった4年だよ。いつの間に、こうなった。

そして「10点でも20点でも、作品を発表し続ける」ことのほうが、自分では何も作らず「他人を分析するだけ」よりもずっと尊いという、あまりに正論すぎるメッセージが、本作の批評だったりレビューを「twitter」に載せる行為を躊躇させる。なんせそのこと自体が、作中で批判されている行為そのままなのだから。だが、原作と同じネタばらしがラストにあるのだが、実は映画ではそこにひとつ要素を追加している。具体的な演出については映画を実際に観てカタルシスを感じて欲しいのだが、簡単に言うと「他人のことをとやかく分析しているのだって、「twitter」に載せて全世界に公開している時点でオマエの作品なんだよ」ということだ。これは先ほどの批判をそのまま裏返しにしており、原作によって負った傷口を癒すかのような、救いとも取れるメッセージである。

とりあえず本作では、「twitter」のイタいツイートも「それも作品である」と肯定してくれた。そのメッセージをそのまま鵜呑みにするべきかどうかは判断が別れるところだが、とりあえずボクは「twitter」のツイートも「作品」だと信じて、少しでも点数が上がるように努力していこうとは決心した。まあ、そうでも思いこまないと「twitter」も、こんなブログも、続けてくの無理だし。

何者

何者

 

 

 

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