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【邦画】『蜜のあわれ』--作り物めいた空間の中で、ひとり生々しい大杉漣

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監督:石井岳龍/脚本:港岳彦/撮影:笠松則通/原作:室生犀星
配給:ファントム・フィルム/公開:2016年4月1日/上映時間:105分
出演: 二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、高良健吾、永瀬正敏

 

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69点
室生犀星が70歳の時に発表した幻想小説(未読だが、会話劇らしい)を映像化した本作。おそらく著者自身をモデルとした老作家と金魚との恋なんていう幻想物語を映像化できた所以は、ひとえに金魚役の二階堂ふみの魅力に尽きる。ただそれを言ってしまうと、このあと書くことが無くなってしまうので、二階堂ふみの件は置いておいて少し別の角度、具体的には他の役者から考えてみたい。

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)

蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)

 

 

鈴木清順へのオマージュが含まれているとおり、本作の舞台となる空間は、箱庭のように作り物めいている。そのため、金魚の尻尾を表すのに赤い布をスクリーンに映すような「そのまんま」なことをやってのけても、それほど違和感は発生しない。そもそも文章でしか成り立たない幻想物語を映像にするには、「そのまんま」という方法しかないのだ。下手に小細工を打つと、9割がた失敗する。残り1割の傑作を観たいと、常に思ってはいるけれども。

ただ、作り物の空間を創り上げるのは、リアリティを追求するよりもずっと至難の技である。スクリーンに映るあらゆるものを非リアルで通さなければならないのだから。では、金魚である二階堂ふみと老いらくの恋を営む老作家役の大杉漣は、その点でどうだろうか。

大杉漣の役者としての評価は、相当な実績を重ねているにもかかわらず、いまだにあやふやである。それはともかく本作においては、作り物の空間の中で大杉漣演じる老作家だけは生々しいリアルを発している。単純に推測するに、スクリーンに映し出される全てが老作家の妄想なのだから、本人だけがリアルなのは正しい。それにしても大杉漣、老人の役がこんなに似合う顔と身体になっていたとは意外であった。

作り物の空間を構築するという意味では、永瀬正敏の存在が大きい。元々、作り物めいた作品でいかんなく実力を発揮するタイプであり、彼が登場するだけで、本作の世界観にグッと説得力が増す。あまりTVドラマに出ないのも、こういう時にはプラスに働く。また、老作家の元彼女である幽霊、という役の真木よう子は、メイクと演出力で作り物っぽさを醸し出している。

さらに本作でポイントなのが、芥川龍之介役の高良健吾だろう。不自然なほど整った縦長の顔は、老作家と対照的に生々しさの欠片もなくツルツルで、あまりに作り物めいている。ここまで芥川龍之介役がハマる役者がほかにいるだろうか。服を獣に変えて攻撃してきてもおかしくないくらいだ。

ちなみに室生犀星が46歳の時に、芥川は35歳で自殺している(本作では、老作家の空想世界みたいなところで芥川は登場する)。本作において老作家は、若くして命を絶った後輩作家に、完全に白旗を上げていて、自分だけが生きて年を重ねていることに負い目を感じている。金魚への恋やら若い女との逢引やらで老いに反抗するも、老人特有の自分勝手な激昂によって全てを失ってしまう。そんなワガママ老人の見苦しさに、本人も気づいている。そんな大杉漣の生々しくヨボヨボの肌を、高良健吾のツルツル肌が一層際立たせている。

まあ、なんだかんだ言って、赤い着物でかわいくお尻を降って踊る二階堂ふみには、誰も適わないのだけれども。

蜜のあわれ

蜜のあわれ

 

 

 

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