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【邦画】『ちはやふる 上の句』--前編ならではの魅力、それは「伏線をすべて回収しなくてもいい」からこその先の読めなさ

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監督&脚本:小泉徳宏/サウンドデザイン:大河原将/原作:末次由紀
配給:東宝/公開:2016年3月19日/上映時間:111分
出演: 広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬

 

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78点 ※ 暫定
百人一首の取り札が並び、その前に座る広瀬すず。競技かるたの簡単な説明を優しく喋るその周りには、邪な目的で群がる男子高校生たち。しかしスマホから札を詠む声が再生されると、広瀬すずの顔つきは豹変し、雄叫びとともに目にも止まらぬ素早さで取り札をはたき上げる。はたかれた札はスローモーションで空を切り、目の前の男子の前髪をかすめ、傍らに置いてあったダルマの額に突き刺さる。

もうこの最初のシーンで全てを掴まれた。純粋に映像としてかっこいいうえに、広瀬すずのかるたに対する熱意も伝わり、さらにこの映画の方向性も指し示している。短い時間でこれが同時にできるって、なかなかないよ。このあと、男子高校生たちは恐れをなして逃げ出し、広瀬すずが追いかけるというマンガ的な展開になるのだが、ここで「ああ、この作品のリアリティはその辺りか」とわかるようになっている。強調しておくが、「マンガ的」という言葉は必ずしも否定的な意味じゃないからね。「マンガ的」という単語を完全な褒め言葉として使うこともあるのだということは、この映画を観ればわかる。このちょうどいい感じの「マンガ的」なリアリティを最初に示してくれたおかげで、競技かるたの試合における凝ったカメラワークにも違和感を持つことなく、純粋に興奮することができるのだ。

さて映画『ちはやふる 上の句』だが、まず何はともあれ、音へのこだわりが半端ない。競技中だったら、短歌独特の発声によって札を読む声、集中力が頂点に達したときに起こる無音、そして札をはたくバシッという豪快な音。この繰り返しで、試合の緊張感は常に持続されている。広瀬すずは、読み手のクセまで判断してちょっとした空気の振動から次に言われるであろう文字を判断できるほどの超人的な耳の持ち主という設定(中盤、その設定が忘れ去られていたようだったのは、気になったが)も、音へのこだわりゆえに効いてくる。ぜひ音響の良い映画館で観て欲しい。立川シネマシティがいいんじゃないかな。

あと感心したのは、百人一首に収められた和歌の意味が、ちゃんと青春物語の中に多重に絡んでくるところ。かるた部員の中に日本史マニアの女の子がいて、主にこの子が和歌の意味を解説することで、よくある青春物語にオリジナルの味付けがされている。この女の子は、顔も声も雰囲気もひっくるめて、「メインの人たちの恋を陰ながら見守る脇役」という役柄にぴったりの素材であった。キャスティングはいずれも素晴らしかったが、特に絶妙だったな、あの女の子。(あとで、この役を演じた上白石萌音という人の宣材写真を見たら、まったく雰囲気が違っていて驚いた)

本作は漫画原作であり、さらに2部作の前編にあたる。この情報だけで食わず嫌いを催す人もいるだろう。でもこれ、実は2部作の前編だからこその魅力がひとつある。通常、映画というものは前半で提示した伏線をラストあたりで回収するものであり、伏線を放ったらかしにしたらそれは失敗作である。だがそのせいで、伏線から判断することで、クライマックスの展開がある程度読めてしまうという弊害も出てきてしまう。でも本作は前編であるゆえに「伏線をすべて回収しなくてもいい」(いくつかの伏線は後編に回せばいい)というところをうまくついているため、クライマックスである都大会がどのように展開するのか予想がつかないのだ

原作漫画を読んでいないということもあるが、まさかクライマックスの試合で、あの男があんなにフィーチャーされると思わなかった。さらに、決勝戦において、タイトルにもなっている「ちはやふる~」の札が、「前編の終わり方」としては完璧の扱われ方だったのにも感激した(ここは本当、実際に観て確認してほしいです。たぶん、予想している展開とは違うから)。あと個人的には、最後の最後に噛ませ犬の役をあてがわれているのが、憎きライバルとして登場した嫌味なヤツではなく、その横の腰巾着だったのが、なんか非常に面白かった。アイツ、後編でも出てくれないかな。味あるし。

もちろん、どの伏線を前編で回収してどれを後編に先送りするかなど、脚本上で綿密な計算がされているからこその、素晴らしさだ。後編がどうなるか今から楽しみだが、間違いなく2016年の邦画ベスト10には入るであろう傑作である。

 

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原作漫画 読んでみようかな。

ちはやふる(1) (BE・LOVEコミックス)

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