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【邦画】『去年の冬、きみと別れ』感想レビュー--「意外な真相」を仕掛けるために、出てくる人たちがサイコパスだらけ

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監督:瀧本智行/脚本:大石哲也/原作:中村文則
配給:ワーナー/公開:2018年3月10日/上映時間:119分
出演:岩田剛典、山本美月、斎藤工、浅見れいな、土村芳、北村一輝

 

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59点
中村文則はそんなに読んでこなかったが、新潮新人賞デビューだし、芥川賞も受賞しているし、てっきり純文学の作家だと思っていた。ただ今回、ちゃんと原作小説を読んでみたところ、これがまごうことなき本格ミステリ小説であったので驚いた。他の作品はわからないが、これは純文学などではない。叙述トリックによる仕掛けが第一というか全てであり、登場人物はその仕掛けのために機械的に動いている、狭義の意味での本格ミステリ小説である。

去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫)

去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫)

 

 

さて映画のほうだが、監督は瀧本智行。ミステリ小説の映画化としては『脳男』に『グラスホッパー』といった監督作がある。原作のほうは小説ならではの仕掛けが全体に施されているのだが、そのまま映画にするのは不可能なので、変更しなくてはいけない。そこで映画では、人物構成から何から、大胆な変更を行っている。もはや「原作」ではなく「原案」ではないかというくらいに

ちょっとしたことがネタバレになってしまうため、あんまり内容に触れられないのだが、木原坂雄大(斎藤工)という写真家に、耶雲恭介(岩田剛典)というライターが密着するというのが前半である。雄大は以前、自宅での撮影中に火事を起こして、盲目の女性モデルを焼死させてしまう。事故による過失ということで執行猶予付きの判決となり、すぐに復帰するのだが、恭介は「故意に火をつけて、燃えている女性の姿を写真に撮っているのではないか」と、雄大に向かって迫る。

映画サイトのあらすじなんかだと、完全に嘘が書いてあったりする本作。たしかに実際にあらすじを書こうとすると、ネタバレをしないうえで嘘も書かないようにするのが、非常に難しい。前段のあらすじも、完全な嘘ではないが、微妙な表現が多数含まれているし、変な日本語になってしまったりする。そのため、これから先は、あまりストーリーに触れないようにして、感じたことを書く。

この手の話ではありがちなのだが、すべての人物の行動が、トリックを作るために操られたコマのようである。本格ミステリというジャンルでは、アガサ・クリスティの頃からそういうものとされていたし、最初に述べたようにこの原作も同じなのだが、映像にして生身の人間が演じると、やはり無理が生じてくる。仕方ないことではあるが。

この無理を解消するために、本作では事件に関わるほとんどの人間を、完全なる異常者にしている。もう、サイコパスだらけで、普通の感覚を持った人がいない。この話は、いくつかの事件が絡み合っていて、それぞれにおいて被害者と加害者と探偵役が入れ替わってくるという少々複雑な構造なのだが、それを成立させるために誰も彼も偏執的な動きをする。

トリックを作るためのコマだと割り切ればいいのだが、そんな中で雄大を演じる斎藤工の「なんか狂っているアーティスト」という役作りが完璧すぎて、逆にオチで違和感が発生してしまっている。このオチの場合、雄大に関しては異常者になり切れていない脆さというか、のちに剥がれるメッキの存在を示唆しておかないといけなかった。原作では、序盤から割とアーティストとしてのダメさは仄めかされていたし、「人の物を欲しがる」という性格も強調されていたのだが。演技力の高さが、逆にアダになったか。

良かったのは、たくさんいる脇役のひとりのように思えた人物が、実はいくつも秘密を抱えており、数段階に渡って少しづつ事件との関連性が判明してくるところ。演じている役者の「何かありそうだけど、何かあるように見えて何もない人なのかな?」という微妙なバランス(少し前の作品でも、似た感じだった)が素晴らしかった。ここはキャスティングの勝利だろう。

トリックが徐々に明らかになるにつれて、感情移入の相手が目まぐるしく変わってしまう創りは、それなりに面白かったと思う。ただ、原作から大きく変更というか新キャラと言ってもいい山本美月の役どころがなあ。一連の事件との距離感を考えれば、ある意味で最も異常な人物なのだが、最後のセリフがいくらなんでも唐突だろう。急に人間味を付け足そうとしちゃっている。トリックを作るための無機質なコマなら、最後までコマのままでいてほしい

 

 

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