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【邦画】『Back Street Girls -ゴクドルズ-』ネタバレ感想レビュー--まさかの東映ヤクザ映画らしく大人数アクションは良かったが「期待していたものが観られない」というおあずけ状態が長い

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監督:原桂之介/脚本:増本庄一郎、伊藤秀裕/原作:ジャスミン・ギュ
配給:東映/上映時間:87分/公開:2019年2月8日
出演:白洲迅、柾木玲弥、花沢将人、岡本夏美、松田るか、坂ノ上茜、菅谷哲也、浅川梨奈、秋山莉奈、高嶋香帆、小沢仁志、桜田通、大杉漣、岩城滉一

 

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58点
驚くことに、東映の映画なんである。社会の変化によって、かつてのヤクザ映画が成立しなくなってしまった今の日本。だが昨年、『孤狼の血』によって現代日本でもヤクザ映画を成立させられる方法論があると、東映は示した。それに続けとばかりに送り出してきたのが、本作『Back Street Girls -ゴクドルズ-』なんである。うん、期待していたのとは、だいぶ違うけど。

Back Street Girls(1) (ヤングマガジンコミックス)

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劇場パンフの冒頭で杉作J太郎が書いている通り、東映には女の子たちが戦うピンキーバイオレンスの系譜もある。ボクは不勉強で『ずべ公番長』シリーズくらいしか観ていないが、おそらく本作も、東映が培ってきたひとつの歴史の流れの先に位置するのであろう。たしかに、この原作漫画のアイデアであれば、かわいい女の子が男どもを鉄パイプで殴りまくるシーンが自然に撮れるわけである。

前置きが長くなったが、大まかなストーリー。兄弟の杯を交わした3人の若きヤクザだったが、対立する組に独断でカチコミをしかけてしまう。不始末を起こした3人は、組長の思い付きでタイで性転換と全身整形をさせられ、かわいい見た目の女の子にさせられたうえでアイドルデビューすることになる。

このカチコミシーンが、意外と尺が長い。大人数を相手にするアクションはなかなかの迫力で、相手の組長が小沢仁志なので場が締まったりと、さすが東映の底力が垣間見えた。でもここって、ピンキーバイオレンスを期待している観客からすると、あまり必要ないんだよね。こっちは早く、かわいい女の子が観たいわけで。よくある構成なら、まずアイドルのライブシーンを冒頭に持ってきてから、回想としてカチコミシーンを入れるんだけど。冒頭からしばらく男しか出てこないので、おあずけ状態になる。

見た目が変わるまでは長かったのに、アイドルデビューしたとたんに「売れちゃったよー」の叫びひとつで、専用劇場を満杯にするほどの人気が出ている。アイドル稼業で一番大変な部分をすっ飛ばすのはギャグだとしても、「中身が男のアイドル」という突飛な設定を存分に生かせるエピソード(ロケ中にスタッフがヤクザに因縁つけられて、つい張り合ってしまう、とか)がダイジェストにされていたりするから、「期待していたものが観られない」という悶々とした気持ちは絶えず続く。

ダイジェストではないところが、どれも失敗エピソードばかりなので、人気が出た理由も一切解らない。スイーツ店での食レポなのだが甘いものが苦手で、無理して食べるものの後で吐くとか。そんなに解りやすく顔を歪ませたらダメだろうとか、ショートケーキを食べて吐くんだったらアレルギーとか疑ったほうがいいのでは、といったツッコミとは別に、これ「中身が男のアイドル」という設定とは関係ないんだよね。嫌いなものを無理して食べるというアイドル道の話だとしたら、事前に伏線として何が嫌いか観客に示しておかないといけないし。

どうにもこうにも、「中身が男のアイドル」という設定からくる面白さが皆無に近い。主演の3人は、かわいいけれど男顔の役者を揃えているし、自然と出てくる男の仕草は巧かったので、もったいなあという気持ちが大きい。もちろん演技の拙さはあるが、そこは東映パイプで連れてきた大物役者に委ねればいい。と思ったのだが、任されているはずの岩城滉一(組長&プロデューサー役)が、実に不安定な演技で台無しになっている。年のせいか長セリフはおぼつかないし、組長としての重厚感とプロデューサーとしての軽薄さを兼ね備えた複雑な役柄がまったくできていない。岩城滉一って、こんなんだっけ。ものすごく小者に見えるんだけど。

なんだかんだで、アイドルサミットを主催するどっかの社長に睡眠薬を飲ませられて襲われそうになるも、朦朧とした中で無意識に返り討ちにする。そしてアイドルサミットの当日、復讐に燃える社長から大切な人を人質に取られた3人がカチコミに行き、大量の手下をバッタバッタとなぎ倒す展開となる。そうそう、これが観たかったんだよ。やっぱり大人数アクションは素晴らしい。欲を言えば、ジャージじゃなくてステージ衣装を着て戦って欲しかったけれど。

いろいろと超展開があったうえで、なぜ事情を知っているのか一切説明もなく組長が現れてバズーカをぶっ放したところで、社長はやられる。3人は大急ぎでアイドルサミットの会場に戻り、締めの挨拶をしているところをギリギリ間に合い、大トリを務めて大成功で終わる。当初の予定をすっぽかしているうえに一番おいしいところをかっさらっている3人に対して他のアイドルたちが歓迎しているのは意味不明だが、まあいいや。ものすごくどうでもいいが、この最後のステージ衣装が絶妙に不自然な形状で、なぜか心に残った。

文句ばかりになってしまったけど、途中に何度かあるトイレのシーンは良かった。男だった頃の自分との会話イメージを画的に具現化しているのだが、蛍光灯の点滅などホラー寄りな演出が面白かった。アクションシーンは少ないので「期待していたものが観られない」というおあずけ状態は長いけど、そのぶん舞台での歌唱シーンは何度もあり、そちら方面を目当てにしていれば充分に満足できる。あと、エンドロールの後にオマケ的なオチがあるけど、あれは蛇足だったんじゃないかな。

 

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