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【邦画】『ゴーストブック おばけずかん』ネタバレ感想レビュー--ハリウッド大作と肩を並べるほどのVFXを台無しにしている要素


監督&脚本:山崎貴/原作:斉藤洋、宮本えつよし
配給:東宝/上映時間:113分/公開:2022年7月22日
出演:城桧吏、柴崎楓雅、サニーマックレンドン、吉村文香、釘宮理恵、下野紘一、杉田智和、大塚明夫、田中泯、神木隆之介、新垣結衣、鈴木杏、遠藤雄弥

 

注意:文中で終盤の展開に軽く触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。本当に軽くですが。

 

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予告映像を見た時から感じていたが、VFXによる映像の迫力と密度は、ハリウッド大作にも引けを取らない。日常の風景が無秩序に崩壊して再構築していく映像では最高峰であるMCUのマルチバース描写やクリストファー・ノーラン作品と並べても、とりあえずは恥ずかしくない程度のレベルだ。描写そのものも内包するテーマ性もアニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』の終盤と非常に似ているが、この手の表現は日本ではアニメでしか張り合えないだろうと思われていたところ、山崎貴監督と白組ならば実写でも充分に可能と本作によって証明された。

 

だが、本作がMCUやノーランと張り合えるとの主張は、大方の賛同を得られないであろう。その大きな理由は、VFXではない部分で、貧相さが露わになっているからである。子供たちの拙い演技に関しては、別にいい。小学生向け(本作は中学生ですらメインターゲットでは無いと思われる)のジュブナイル作品では、それもまた様式美のひとつであるから。また、空想的とはいえリアルな日常風景を模した空間なため、完全な異世界を舞台にした作品にありがちな「生身の人間が画面から浮いているかのような違和感」が発生しておらず、役者の存在が作品を邪魔しているわけではない。

では、何が画面から浮いているかというと、劇中に登場する「おばけ」なのである。こちらもまたCGを駆使して縦横無尽に動かしているのだが、なぜか貧相。VFX空間とも、生身の人間とも、密度がまったく張り合えていないのである。「百目」なのに明らかに目玉が百個も無いなどの細部の詰めの甘さもさることながら、そもそもCGのはずなのに着ぐるみ感が半端ない。そんなところで『シン・ウルトラマン』と張り合わなくてもいいのに(張り合っているつもりが無いのは重々承知だが)。

姿かたちは凡庸だし、妙に人間臭い会話を繰り広げる「おばけ」たちの貧相な感じは、これが『妖怪シェアハウス』であればチープとカタカナ表記で呼ばれ魅力にもなるが、壮大に創り上げられた本作の空間とはきわめて相性が悪い。さらには脚本上では重要となる「おばけ」たちとのバトルシーンも御都合主義の連続で、これまた貧相な話だ。

貧相な話の例をひとつ挙げると、「空飛ぶ雲梯」という「おばけ」との対決シーン。ただの雲梯(念のため説明すると、校庭とかにある梯子を横にした形の遊具)だと思ってぶら下がっていると手が離れなくなり、そのまま空を飛んであの世まで連れていかれてしまう恐ろしい「おばけ」だ。その突飛な設定はともかく、重さで止まるはずと皆でぶら下がってそのまま上空に運ばれていく頭の悪い展開には辟易する。「おばけ」は「おばけずかん」という本を押し当てると封印できるのだが、「空飛ぶ雲梯」が地上付近にいるときにそれをする当たり前の発想が無い。それで後になって「あの時、本を押し当てていれば良かったんだよ」とセリフ一言で済ませるのは観客を馬鹿にしている。

それでまたこの「空飛ぶ雲梯」、雲梯に目と口を描いただけの適当な造形なんである。成田亨に見せたらぶん殴られるレベル。なんでこんなことになってるのかと思ったら、脚本のみならずキャラクターデザインのクレジットも山崎貴だった。この人、作家性が強いというか作品の大部分を自分の責任にしてしまうところがあって、その心意気自体は好感が持てるのだけれど、不得手な部分は人に振ることもしたほうがいい気がする。VFXに専念するとか職人的な仕事ができない性分なのかなあ。

最後に、気になったことをいくつか。まず、新垣結衣がちゃんと「受け」の演技ができているのに驚いた。演技の未熟な小中学生の役者を相手にしている以上はそうするしかないのだが、それにしたって新垣結衣の演技に注目させられたのは初めてかもしれない。『鎌倉殿の13人』ですら、気にも留めていなかったのに。これは良い発見であり、今後の活躍に期待が持てる。

物語上の疑問点では、まずあの少女が何で異空間に現れたのかの合理的な説明が最後まで無いのが引っかかる(聞き逃しただけかもしれないが)。あと、時間操作系の能力を出す時は細心の注意を払わなくてはいけないわけで、本作の場合は辻褄は合っているのだが、分岐したうちの断絶されたほうの時間軸に取り残された彼らはどうなったのか。消滅するか、もしくは存在を否定された時間軸の中で彷徨い続けるか、その2つしか選択肢は無いように思われるが。幸せなエンディングの裏で壮絶なことが起きているかもしれない。

ついでに、もうひとつ。カレーを作るのにタマネギをみじん切りにしているってどうなのかと思ったが、炒める時間を短縮するための裏ワザとしてポピュラーな方法らしい。知らなかった。
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