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【小説】最近読んだ小説レビュー--彩藤アザミ、桐野夏生、大崎梢

彩藤アザミ『樹液少女』

65点
第1回新潮ミステリー大賞受賞者の2作目。雪で閉ざされた山荘を舞台にした連続殺人事件が起こるという、正統派の本格ミステリを思わせる設定こそが、本作に巧妙に仕掛けられた罠であった。幼少期に行方不明となった主人公の妹が今どうなっているのか、最初のほうで多くの読者がある憶測を立てるだろう。そして、その憶測通りにならないでくれという願いとともに読み進め、本格ミステリマニアの男による巧みな話術にすがってしまう。しかし結果的には、なんだかんだで最初の憶測通りのオチが待ち受けており、読者はそこに巨大な絶望と少しの救いを感じ取るしかなくなる。本格ミステリというジャンルに対する鮮やかな否定であり、なぜか爽快な気分にもなってしまうから不思議である。

樹液少女

樹液少女

 

 


桐野夏生『バラカ』

62点
ベテラン女性作家による、東日本大震災(ただし福島原発は4機とも爆発したという設定)の前後における、ある少女を取り巻く人々を描いた問題作。人間のドス黒い本能の描かれ方は、いつも通り嫌味たっぷりで最高である。だが今回、あまりに説明が不足してやいないか。特に、川崎という物語を引っ掻き回す嫌な男の最期が、あまりに腑に落ちない。著者が書くまでもない当たり前のこととしている何かが、どうしてもこちらに伝わってこないのである。原発が爆発したってだけで、そう簡単に人間の欲望やら悪意やらは浮き彫りになるものなのか。

バラカ

バラカ

 

 


大崎梢『誰にも探せない』

51点
『配達あかずきん』でデビューした著者による青春ミステリ。幼馴染である2人の大学生を主人公として、穴山梅雪が埋蔵金を隠したという幻の村を探しているうちに、半グレ集団やら美人ジャーナリストやらが絡んできて物語は混迷していく。全体を通して文章がぎこちなく、人が死んだりしている割にはテンポが緩い。思わせぶりな人物を出しておきながら、色恋の話が全く盛り上がらないのも変な感じ。山の中で多くの人物がさまよいところどころで暴力沙汰が起こる後半も、状況把握に手間取ってしまい、命がかかっている割には手に汗握るほど興奮するまでには至れない。

誰にも探せない

誰にも探せない

 

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