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【小説】最近読んだ小説レビュー--城山真一、真保裕一、井上真偽

城山真一『ブラック・ヴィーナス』

67点
第14回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。巻末には選考委員の選評も載っているが、前からだけどこの人たちは本当に「リーダビリティ」という単語が大好きである。今回も4人中3人が「リーダビリティ」または「リーダブル」という単語を使っていた。というわけで本作は金融モノという門外漢にはとっつきにくい題材にも関わらず、大変にリーダビリティが高く一気に読める。「黒女神」と呼ばれる株の天才美女が、持ち前の投資テクニックであらゆる危機を乗り越えていく爽快感が堪らない。謎めいた美女として登場したキャラクターが少しづつ素を見せていく過程も王道だが楽しく読める。具体的な投資のあれこれは素人にもわかる程度に抑えているのが、詳しい人によっては物足りないかもしれないが。あ、「リーダビリティ」ってのは「読みやすさ」って意味です。

 


真保裕一『赤毛のアンナ』

54点
この著者の初期作品はけっこう読んでいるのだが、なぜか楽しめないことが多く、ずいぶんと長いあいだ手に取るのを控えていた。かなりの事件が起きているのにスリリングさが足りない、みたいな感じ。『ホワイトアウト』は映画のほうがまだ面白かったなあ。で、本作は、『赤毛のアン』に憧れ続け、それゆえ自己犠牲の精神を貫き続けた女性の半生を、関わった人たちからの視点で浮き上がらせていくという話。『赤毛のアン』精神によって得られた多くの絆は、ラストではどん底状態の彼女もいずれ幸せな未来を得られるだろうことを予感させる。でもこれ、とっても長いプロローグだろう。人生のほとんどはプロローグでしかない、という意味なら、まあ共感はするけど。

赤毛のアンナ (文芸書)

赤毛のアンナ (文芸書)

 

 

 

井上真偽『その可能性はすでに考えた』

69点
第51回メフィスト賞受賞作家の2作目。本格ミステリとは、人の死をオモチャにして論理をこねくり回す不謹慎な遊びである。そのことはポーの時から変わらないが、本作はある意味その究極系かもしれない。まずは奇怪な閉鎖空間を創造し、そこで起こった殺人事件の謎を解いては、論理的矛盾を突いて否定を行う。もちろん物語上は事件を起こした者と謎解きをする者とその論を否定する者は別人だが、同じ作者が産みだしているという観点からすると、あまりにマッチポンプというか、内向の極みである。そんな論理ごっこだが、ここまで執拗かつエキセントリックであると、単純に興奮する。そんな自家中毒の果てにたどり着いた先に、"奇跡"があるのだろうし、作者はそれに片手を引っかけるくらいは近づいたはずである。

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

 

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過去の小説レビュー

yagan.hatenablog.com

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