有栖川有栖『鍵の掛かった男』
66点
火村英生シリーズの最新作で、長編としては9年ぶり。大阪・中之島にあるホテルで謎の死を遂げた謎の男の謎の人生を、主に"助手"の有栖川(作者じゃなくて小説内の登場人物。念のため)が解き明かしていく。登場人物の多くは穏やかであり、人は死んでいるものの「日常の謎」に近い印象を最初は持つが、謎の男のことが次第に明かされていくにつれて、平穏としていたはずの世界は大きく変化していく。いや、実は少しも平穏でなかったことに気づかされる。あくまで先駆者が創り上げたミステリの王道を行く有栖川有栖のポリシーを、今回も感じる。
石持浅海『凪の司祭』
47点
休日のショッピングモールにて、2000人の殺害を目標とした無差別テロの話なのに、まったく盛り上がらない。最大の理由は、あらゆる情報がフラットなために物語の起伏が全くないところだろう。けっこう長めの人物説明をした次の瞬間にその人物が死ぬ、というパターンをプロローグから何度も用いるため、誰が死のうが生きようが構わなくなってくる。せめて実行犯の視点を削除すれば、どうにかなったかもしれないが。あと、例えば殺害に用いる毒の説明など、同じことが繰り返し何度も何度も書かれているところも、退屈に拍車をかけている。
上田早夕里『セント・イージス号の武勲』
52点
19世紀のヨーロッパを舞台に、トラファルガーの海戦など史実を絡めつつ、天涯孤独だった少年が船の上での経験や出会いを通して成長する様を描く海洋冒険小説。これ最大の問題は、一番のSFポイントである巨大海洋生物の存在が、船上のドラマと有機的に掛け合わさっていないところだろう。船の描写も海洋生物の描写もそれなりに面白いのだが、1+1=2で終わってしまっているのがなんとも物足りない。
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