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【邦画】『俳優 亀岡拓次』--亀岡は、現実と虚構の合間を常にフラフラとさまよっている

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監督,脚本:横浜聡子/原作:戌井昭人/音楽:大友良英
配給:日活/公開:2016年1月30日/上映時間:123分
出演/安田顕麻生久美子、宇野祥平、新井浩文染谷将太三田佳子山崎努

 

72点
ボクは横浜聡子監督が大好きなんである。長編2作目の松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』は、青森を舞台にマジックリアリズムをやってしまった傑作であった。当時、人に会うたびには勧めては、「意味がわからない」「微妙」と言われたものだ。あれから7年、やっと発表された長編3作目が、牛乳リバースこと安田顕を主演に配した『俳優 亀岡拓次』である。

主人公の亀岡(安田顕)は、年に何本もの映画に出演している役者である。脇役としてどんな役でもこなすため重宝され、全国各地を飛び回って撮影に参加しているが、映画通でなければ名前も知らず、町で顔を差されることもない。なんていう回りくどい説明をするまでもなく、つまり宇野祥平みたいな人だ。宇野祥平は、同じ苗字の宇野という、亀岡の友人でもある脇役俳優の役で本作に出演しているので紛らわしいが、だったら川瀬陽太みたいな人、でもいい。

亀岡は、ホームレスからヤクザまで、その場その場で架空の存在になりきる、という仕事をしている。仕事でないときは、基本的に寝ているか酒を飲んでいる。つまり、仕事だろうがプライベートだろうが、現実と虚構の合間を常にフラフラとさまよっている存在だ。山形での撮影が一日伸びたため、時間を潰すために小さな映画館に入ると、なぜか自分の出演している舞台の上にいる。そんな状況下でも亀岡は普段通りの低いテンションで三田佳子の胸を揉む。もはや虚構に入り込むのが日常らしい。で、この作品がセオリーを外れているのは、そんな特異な存在であるにもかかわらず、亀岡は周囲の人たちに特に影響を与えないんだよね。これはもう徹底している。

基本的に様々な撮影現場でのちょっとした出来事が並んでいる構成であるが、「寒天くらいしか自慢するものがない町」(ボクの地元近くです。はい、その通りです)の飲み屋の女将である安曇(麻生久美子)に亀岡が恋心を抱く、というメインの話がある。この映画、場面転換のたびに電車やロケバスや飛行機など、亀岡が乗り物によって運ばれているカットが挟まるのだが、ラスト近くで(告白するために)安曇に会いにいくシーンでは、亀岡がカブを運転して甲州街道をひた走る。呼ばれるがままに全国をフラフラとさまよっている亀岡が、自らの意思で目的地に移動している唯一のシーンであり、あえてチープなスクリーンプロセスと相まって独特のマジックリアリズムを形成している。横浜聡子監督の面目躍如である名シーンだ。

まあ単純に、大御所監督による大作時代劇や新進監督のインディーズ作品など、いろんな映画撮影現場の「あるある」が垣間見えて普通に興味深いし、あちこち笑える楽しい作品なので、観て損はないと思います。

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横浜聡子監督の過去作。ぶっ飛んでいるので、ぜひ観て欲しいっす。

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