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【邦画/ドキュ】『ヤクザと憲法』--ヤクザは銀行口座も作れなければ子供を幼稚園に預けることもできない

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監督:土方宏史/プロデューサー:阿武野勝彦
配給:東海テレビ放送/公開:2016年1月2日/上映時間:96分

 

75点
「その年の最初に公開される映画を初日に観る」というのが、いつの間にか自分の中で毎年恒例になっている。初詣みたいなものか。2016年で最初に公開された邦画は『ヤクザと憲法』というドキュメンタリー映画。というわけで1月2日という正月気分真っ只中にも関わらず、ポレポレ東中野に出向いたのだった。

ちなみに2015年の邦画一発目は『千年の一滴 だし しょうゆ』というドキュメンタリー映画で、同じく1月2日にポレポレ東中野で公開され、もちろんボクも観に行った。去年も今年も約100席ある映画館が満席になったので、「その年の最初に公開される映画を初日に観る」という恒例行事を行っている人は少なくないのかもしれない。まあ、1月2日ってちょうど暇になってくる時期だし。

にしても、『ヤクザと憲法』は内容が内容だけに、隣の観客がソッチの人なんじゃないかとかどうしても考えてしまう。上映後の舞台挨拶でプロデューサーが言っていたとおり、実際に客席にいるのは"検閲"目的の警察官なのだが。似たようなもんか。

さて、社会派のドキュメンタリーを次々に発表して高評価を得ている東海テレビが制作した最新作『ヤクザと憲法』は、とんでもない映画である。指定暴力団「二代目東組 二代目清友会」の事務所に入り込み3ヶ月以上も中でカメラを回しているのだ。かつて「キャッツアイ事件」で15年の実刑判決を受けた会長・川口和秀にも密着取材している。川口会長、ちゃんと選挙にも行っていた。

たまに「高校野球」とか気になるワードも出てくるが、暴力団事務所といえどもショッキングな事件が起こるわけではなく、おじさんたちがだべっていたりTVを見ていたりするだけである。若い組員がドアの向こうで怒鳴られ大きな物音がするというシーンがあったが、事務所内部の事件といえばそのくらいだ。で、ドキュメンタリーの常として、ふとカメラに映り込む細かいところが気になってくる。壁の張り紙とか。TVの前にあるソファで寝るな、とか書いてあった。カメラが映し出すヤクザの皆さんはいずれも、ちょっと愛らしい一面を持った"普通"の人たちだ。

今は、ヤクザにとっては非常に生きにくい時代である。景気が悪くてシノギが少ないとか、そういう意味ではない。暴力団排除条例のおかげで、銀行口座も作れなければ子供を幼稚園に預けることもできないという現状のことだ。ボクも何度となくサインしている「反社会的勢力とは関わっていません」というアレが、彼らから最低限の日常生活すら奪っている。実際この映画の中で、何人かの登場人物が常識的に考えてありえないようなことで逮捕されたり起訴されたりしている。長期の密着取材によって「撮れてしまった」のは、基本的人権すら無視しているかのような権力者の横暴ぶりである。

別に暴力団の肩を持つ気はない。だが、国や警察が、彼らを日本国憲法における「法の下の平等」の適用外にしているのではないかと疑問を抱くような実態について、「だってヤクザだから仕方ない」と黙認していると、次に自分が同じ身になったときに言い訳できない、ということは肝に銘じておくべきだろう。

 

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