はじめに
映画レビューのブログをやっていると、「めちゃくちゃ話題だし、ここでわざわざ取り上げなくてもいいかな」という作品もある。ボクは優れた批評眼とか特殊な感性があるわけでもないので、みんなが観ていていろんな意見が飛び交っている話題作について、まったく新しい視点からのレビューを書くことなんてできない。他の誰かと似通った内容の話なんてしなくてもいいかと思い、取り上げること自体をやめてしまうことさえ多々ある。だったら、他でほとんど取り上げられていない『ホペイロの憂鬱』を称賛するほうが、まだ何かの役に立つだろうし。
そういうこともあり、超話題作について、他の方々がどういうレビューを書いているのかは普段から気になっている。参考にさせていただきたいなと。
というわけで今回は、アカデミー作品賞まで受賞してメチャクチャ話題の作品『シェイプ・オブ・ウォーター』を取り上げたブログを、片っ端から読んでみました。いやー、集合知って素晴らしいですね。ほとんどの方は文章のプロではないと思いますが、そういう見方があったのかと、この作品についていろんなことがわかってきました。
ただ、片っ端と言っても、さすがに多すぎたので、今回は映画公開日の3月1日木曜日から4日間、日曜日の夜9時までにUPされた「はてなブログ」のみに限定しました。それでも40本くらい。映画ブログってこんなにあるのかと思い知らされました。以下、引用しながら雑感を書いてみました。
(なお、ブログ引用の際は、文字の大きさ、色、フォントなどは統一して変更しています。ブログにおいてそれらの要素は重要ですが、当ブログ内での読みやすさを優先させて頂きました。ご了承ください)
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連想する他の作品について
ブログに限らず、映画レビューで注目するのは、連想する他の作品についての記述。過去作との類似点を指摘して、影響下にあるのではと予想するのは映画クラスタの楽しみのひとつですね。
やっぱりデル・トロ監督の過去作『ヘルボーイ』を挙げる人が多かったです。あとは人外との恋愛という共通点がある『美女と野獣』をアンチという意味で取り上げる人もちらほら。そんな中で意外性があったのがこちら。
1950.60年代のレトロかつ機械的で実際の当時より技術の進歩がある事を想像させるような世界はまるでTVゲームの「フォールアウトシリーズ」や「バイオショックシリーズ」を彷彿とさせます。(ディストピアではありませんが、そうなる前のようなイメージですね。)
カエル「えっと……映画じゃないよね? PS3で発売されたrainを参考に挙げるの?」
主「この映画に1番にている作品は何か? と訊かれたら、自分は間違いなくrainだと答える。
多くの映画好きが映画からの影響を指摘するだろうけれど、デルトロのオタク知識は特定の分野だけに限定したものではないからね」
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』ネタバレ感想 デル・トロ版美女と野獣の物語が深く染み入る - 物語る亀
どちらもTVゲームを挙げてました。(自分にとって詳しくない)異ジャンルの作品を挙げてくれると、けっこうありがたいです。
アレの呼び名について
『シェイプ・オブ・ウォーター』を取り上げる際に困るのは、アレの呼び方。公式でも役名は「不思議な生きもの」ですし、多くのブログで使用されている「半魚人」という表現は、実は作中にはでてこないですし。「怪物」とか「クリーチャー」という表現も散見。そんな中、オリジナルの呼び名を考えているブログもありました。
それがあの半魚人。アマゾンの奥地で神と崇められいた生物で、未知の生物。アメリカ政府は彼を拉致し、研究対象としたのでした。(この生き物、名前が出てこないんですが…そっくりなので勝手にエイブと呼ぶ事にしました笑 因みに演じている方も同じです。)
S・ホーキンスがマスターベーションの片手間に作ったゆで卵を板東英二なみに好む。以下、板東と呼びます。
エイブというのは『ヘルボーイ』のキャラクター。2番目のブログでは、そのあとずっと板東と呼んでいて、なかなか楽しいことになっています。
でも、この映画を観て自分自身の中で確実に変わった事が一つあります。
それは、前の紹介時の記事では「半魚人」と
どちらかと言うと馬鹿にした呼び方にしていたあの生き物を
”彼”という人間に近い認識として呼ぶようになった事です。
もう、この映画を観てしまった後では物や動物扱いが出来なくなってます。
特に好きでも美しいとも思ってないのですが、もう”彼”と呼ぶ事しか出来ない。
映画「シェイプ・オブ・ウォーター」もう”彼”としか呼べない。イライザは自慰もSEXもする普通の女の子。R15(原題:The Shape of Water) - 映画ブログ~鑑賞記録~
映画を観る前と観た後で得た心の変化を、呼び名の変化で表しています。この感覚は、多くの人が持ったのではないでしょうか。
水の描写と画面の色彩について
最も多く触れられていたのは、水の描写について。映画ブログはストーリー語りに終始することが多いという勝手なイメージがあったのですが、この作品に関しては全体的な雰囲気を着目される傾向があるようです。
もう一つ素晴らしかったのは映像ですね。セットデザインとかもそれも素晴らしいんですが、水の表現が本当にきれいで素晴らしいなのは勿論、色んな水の表現などでキャラクターの心理描写や関係性を表してるのが多かったですね。
水ってなんでもなれます。熱くも冷たくもなりますし、人を助けたり人を殺すこともできます。これはアニメ『カウボーイ・ビバップ』で教わりましたが、やはり人間の心や感情や気持ちも水のように言ってしまえば自由自在なんだと言いたかったのかもしれません。
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』愛してる人と見てほしい傑作ラブロマンス映画!評価&感想【No.373】 - KOUTAの映画DASH!!
水とは愛のようである。
であるならば、「The Shape of Water」は愛の外在化でもあるのか!
愛のメタファー!
先述のように言うなら、愛(水)が無いということは人間に取って死に等しい。
【ネタバレ感想】『シェイプ・オブ・ウォーター』評 強力で優しい愛の外在化 - Club Silencio
よく考えたら、タイトルが『シェイプ・オブ・ウォーター』(水の形)ですもんね。単純に水描写の美しさに感動しているブログや、ここに挙げたように水を感情表現のメタファーを考察したブログなど、たくさんありました。
そういえば、映画には大昔から「雨を降らして悲しみを表現する」という古典的手法がありますね。
物語だけでなく、ビジュアル的な面においても
とてもよく作りこまれていたと思います。
イメージカラーのブルー(ティールというらしい)は
水の中を連想させ、60年代というレトロでダークな雰囲気も素敵。
あえて、現代ではなくこの時代設定したことによって
程よい「御伽噺」感が出て、
この映画の世界観により入り込みやすくなっていました。
劇中でも出てくる言葉ですが、ティール色という色が背景や服の色、そしてストリックランドが購入したキャデラックに使われていました。
そして、主人公イライザは半魚人への思いが強くなっていくと徐々に赤いアイテムをつけていくのが印象的でした。
映画「シェイプオブウォーター」感想ネタバレあり解説 誰にも邪魔されない愛の形。 - モンキー的映画のススメ
研究施設内の内装や、不思議な生き物のいる水の色が基調となり、映像の中は大半が青緑色になっています。
しかし、イライザの心が変わったときに彼女の身に着けるものの色が変わったり、時折きらびやかな映画館の場面があるなど、色合いの美しさを感じさせる演出が挿入されていました。
全体的に重厚感を覚える映像ですが、おしゃれな色遣いを眺められるのも見どころの一つです。
まずは青緑を基調とした色彩設計。非常に美しいですね。心が安らぎますね。
主舞台となるアパートと研究所だけでなく、衣装や車など、すべての被写体が青緑で塗り固められている。
新しい自動車を買いにきたマイケル・シャノンにディーラーは言う。
「これからは緑の時代ですよ!」
なぜデルトロは緑・青緑を基調色に選んだのか。作品のイメージカラー、あるいは赤(愛と暴力のメタファー)が映えるように…など色彩論的な根拠もあるが、なにより緑系統が自由を象徴する色だからだろう(反対に赤は共産主義の色)。
水描写と関連して、色彩の話もよくありました。劇中に登場する「ティール」(ボクは字幕で観たのですが、吹替だとどうなってるのでしょうか)のほか、青だったり緑だったり青緑だったりと、ブログによって表現が少しづつ違います。
青と赤の対比というのは、ボクが観たときには印象深かったことなのですが、意外と触れているブログは少なかったですね。「赤」を情熱の色と好意的に取るか、共産主義など抑圧の色と否定的に取るか、ブログによって違いがあります。
演出について
プロではない方のブログでは、演出について触れられることは少ないです。ですが今回は、演出についても触れているブログがありました。
でも、個人的に深く印象に残ったのがカメラワークなんだよ。この作品、ほぼカメラがずっと動きっぱなし。固定カメラで役者の顔を撮ったり、場面を撮るということがあまりない。
それも激しく動くということではないけれど……最初に正面から撮ったと思ったら滑らかに上昇していったりとか、ひっきりなしにカメラが動く。ああ、こういう演出をするんだ……って勉強になったね
映画『シェイプ・オブ・ウォーター』ネタバレ感想 デル・トロ版美女と野獣の物語が深く染み入る - 物語る亀
縦横のシーン移動によって劇的なる場面の切り替えをある場面では選択し、さらに前後のシーンの音がほとんど繋がっている。鳴っている音から、かかっている音楽まで全てが何かと繋がっている。この連結はセックスであり、半魚人とだってセックスできるのだから、場面同士だってセックスが出来るというわけである。
半魚人と耳が聴こえない女性の可憐なミュージカル『シェイプ・オブ・ウォーター』 - 素潜り旬の『男の踊り子、映画のような』
こういう演出表現について着目することがボクには苦手なので、非常に参考になります。
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ストリックランドについて
実は、とにかく多かったのが、この作品の悪役であるストリックランド(マイケル・シャノン)について。主人公の次に多く触れられていたような気もします。そして、ストリックランドを語らせると、やたらと皆さん冗舌になります。
ストリックランドは「用足し後に手を洗う奴は軟弱だ」という謎の独自理論を持ち、愛読書は「ポジティブシンキング」、金髪の妻に庭付き一戸建てとキャデラックという典型的なアメリカ白人男性(おまけに絶倫)。彼が半魚人をいたぶる武器の警棒は男根の象徴でしょうね。
支持政党は間違いなく共和党。
シェイプ・オブ・ウォーター ーー【ネタバレ感想】「異形の者」たちのハーモニー★★★☆(3.9) - ファンタスティック映画主婦
全ては自分が成功するための道具であり、自分意外の弱い者は力で踏みつけ、自分は強い人間だ、強い者こそ正義で弱い者は悪、俺はできる男だと思い込んでいる、そんな彼はやはりトランプ大統領を意識した存在だと思います。
映画「シェイプオブウォーター」感想ネタバレあり解説 誰にも邪魔されない愛の形。 - モンキー的映画のススメ
どちらの文章も、ストリックランドの性格を表す具体例を並べて一つの文章につなげることで、軽蔑をにじみ出させています。そのうえで「男根の象徴」「トランプ大統領」といった強烈な単語でダメ押し。文章テクニックが巧いです。
これは「そう生まれてしまったモノたち」の物語であり、実はその点においてマイケル・シャノンですらフリークと読んでも差し支えない気がする。ぶっちゃけ、日本の企業体質を知っている人からすると、シャノンに感情移入してしまってもおかしくはない。それくらい、軍という組織のシステムの中でシャノンは苦しみ、あそこまで強権的に振舞わなければの組織の中で生き残ることができなかったのだから。上からの命令に不満を抱きつつもそれに従うしかないあの姿は、はっきり言って児童向けアニメの悪役の下っ端そのものです。
グレイテスト・ショーマンより断然フリークの話ですた。 - dadalizerの映画雑文
こうした登場人物の中で、実は一番心の機微がよくわかったのはマイケル・シャノン演じる狂気のマッチョ、ストリックランドだ。
<中略>
うわー、最低。人間誰しも失敗するに決まってるじゃないですか。失敗をゼロにするには死ぬしかないで。なんしかこいつは上司として最悪のタイプです。しかしそう言われたマイケルシャノンは切羽詰まって暴走する。そりゃそうよなー。分かる。よく分かるよ! マイケルシャノンの壮絶な死に様に「I'll be back」と溶鉱炉に消えたターミネーターの姿を重ねて哀切を感じた。
<中略>
シェイプ・オブ・ウオーターは、なんといっても、マイケル・シャノンの映画だと思う。 マイケル・シャノン! マイケル・シャノン!
『シェイプ・オブ・ウォーター』はマイケル・シャノンに尽きる - うだうだと考える日記
一方でストリックランドに共感を覚え、哀愁を感じているブログもありました。こちらは、ほとばしる感情がそのまま文体に現れている傾向です。
ストリックランドの境遇が、今の日本人の胸を打つのかもしれません。アメリカにおける古い時代の象徴に現代の日本人が共感していちゃまずいのかもしれませんが。
敵か味方か「赤」の「ホフステトラー」博士が存在する。彼は理知的かつ物語内の板挟み、胃薬をボリボリかじりながら解決するタイプだ。
筆舌し難い作品 「シェイプオブウォーター」 - HAL8192のモノリス達
ちなみに、この人に関する話題が異様に少なかったのも印象的でした。一応メインキャラクターのひとりなのに。
愛について
結局はラブストーリーなので、大きく愛とは何ぞやと結論を引き出しているブログも多かったですね。
愛は、理屈で語れるものでない。
愛は、感情が溢れ出し、自分を制御できなくなる厄介なものであるが、それ以上の素晴らしさがある。
【映画】THE SHAPE OF WATER シェイプ・オブ・ウォーター 〜アート的な美しい愛の表現〜 - 二兎を追って二兎を得たい人材業界リーマンのブログ
人魚と人間の出会いをテーマにした物語はそれこそ数多くありますが、「シェイプ・オブ・ウォーター」のメッセージとは、別に「半魚人や人魚を愛せ」ということではなく、「マイノリティを愛せ」ということでもなく、ただ、「あなたの身近にいる人を大切にせよ」ということではないでしょうか。 わたしには、そう思えてなりません。
「シェイプ・オブ・ウォーター 」 - 一条真也の新ハートフル・ブログ
人をすきになるのって、簡単だなぁ。
共通点こそが、好きのもとなのかな。
魚人と恋に落ちるイライザの一言が答えである。 声を出せないのは私も彼も同じ。だから彼も私と同じ人間だ、と。
つまり、違いよりも共通点に目を向けましょう、と。
シェイプ・オブ・ウォーター | 魚人に恋ができますか? - Subtle Blog
愛とは共通点を見つけること、というような結論のブログが2つありました。
ラストのオチに関しては
中盤ぐらいでなんとなく予想がついてたんだけど、
実際に予想通りのラストを観ると、
「ってことは、結局彼女がアレのことを理解できたのは、そうゆうことじゃん」、
って思っちゃうのは、私だけ?
要するに、
誰も他の人のことなんて理解できるわけない、ってゆうなんともドライなお話でした。
一方で、こんな意見も。(多少ボクの曲解ですが)共通点を持たないと愛することはできないのか、と。確かにそれも一理あります。
オマケ
割と現実目線で観て、気になるところを挙げているブログもちらほらありました。一応ファンタジーですが、冷戦期のアメリカというちゃんと実在した舞台設定なので、リアリティを求める人がいても不思議ではありません。
それにつけても60年代。アメリカには当時、テレビのリモコンが既に存在したの?と本筋には全く関係ないところでものすごくびっくりしました。
シェイプ・オブ・ウォーター - almost everyday.
個人的に強く「ああ、そういえば確かに」と思ったのがこちら。ざっと検索してみたら、無線のテレビリモコンは1956年にはアメリカで製造されていたそう。当時どれだけ普及していたのかまでは、たどり着けませんでした。
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最後に
新企画としてやってみた「ブログウォッチ」ですが、まあ予想はしていましたが大変でした。執筆に入ってしまえば3~4時間くらい(それでも普段よりずっとかかっている)ですが、ブログを読み込むのに時間がかかりました。もちろんいろんな意見を読むことができて、「ああ、こんな見方があるのか」「あのシーンって、こういう意味だったのか」と、なかなか有意義だったのは確かです。今回引用できなかったブログを含めて、全ての方の知見が参考になりました。今回得られた知見を引っ提げて、もう一度、映画館にて鑑賞したいと思っています。
もちろん当記事中で引用しているブログは、ごくごく一部を抜き書きしているにすぎません。ブログ記事全体を読むことで、初めて書き手の真意がわかると思います。ぜひ、リンクから各ブログに飛んで、記事全体を読んでみてください。きっと新しい発見があるはずです。
この「ブログウォッチ」企画、またやるかどうかはわかりません。記事を書くためのスケジュール確保もあるので、やるとしてもしばらく先になると思います。今回は公開から4日間のうちにUPされたはてなブログ限定でしたので、次はもう少し範囲を広げたいと考えています。
最後に、ブログ記事を引用させていただいた方々に、感謝いたします。ありがとうございました。