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【邦画/アニメ】『映画 中二病でも恋がしたい! Take On Me』--七宮智音が幸せになってくれれば、それでいい

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監督:石原立也/脚本:花田十輝/原作:虎虎
配給:松竹/公開:2018年1月6日/上映時間:98分
出演:福山潤、内田真礼、赤崎千夏、浅倉杏美、上坂すみれ、長妻樹里

 

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58点
京都アニメーション制作のアニメは、最終回で主人公がヒロインに告白するというパターンを何度か行っている。『境界の彼方』『氷菓』や、劇場版だが『たまこラブストーリー』など。深夜アニメの場合は「恋愛未満」のまま関係性を停滞させておいたほうが続編を作りやすいのだが、京アニでは告白という形によって関係性を前進させるほうを選ぶことが多い。現状維持なんてものは、つまらない安全パイということか。

『中二病でも恋がしたい!』も、最終回では主人公がヒロインに告白して、関係性を前進させて終わらせている。しかも、恋愛関係になったあとの話である続編『中二病でも恋がしたい! 戀』も制作している。主人公の男女が恋愛関係をどう育むかという話は、深夜アニメでは珍しい。(主人公男女が恋愛関係というアニメは『ソードアート・オンライン』などいくつかあるが、恋愛自体が話の主体ではない場合が多い)

続編『戀』では、自らを邪王真眼と名乗り妄想の中に閉じこもる「中二病」のヒロインが、その殻を保ちつつも自分なりに恋愛を進めようとする健気な姿と、その姿勢にできる限り答えようとする男が描かれる。2人は手探り状態ながらも、ともに少しづつ前進しようとする。そう、あくまで前進なのだ。この世界の恋愛において、現状維持は良くないこととされている。(このままでいい的なことを口走ると、すぐ周りから怒鳴られる)

さて、ほんの少しづつの前進というテーマは、今回の劇場版『映画 中二病でも恋がしたい! Take On Me』でも受け継がれる。時系列で言うと、『戀』は高校2年の夏休みが終わったところで最終回だが、劇場版は高2から高3に上がる春休みが舞台。ヒロイン・小鳥遊六花が姉によってイタリアに連れていかれそうになるのを、主人公・富樫勇太と2人で駆け落ちして逃げようとする。元の舞台は滋賀なのだが、そこから京都、三重、東京、北海道、青森と愛の逃避行を繰り広げる。

身も蓋もない言い方をすると、高校生カップルが日本各地でデートしているところを見せられているわけだ。なお、裏の主人公と言うべき2人組が追いかけていて、各地でギャグを繰り広げて狂言回しに徹している。京アニの別のアニメとのコラボもあり、この劇場版は基本的にはファンサービスなんである。京アニでいうと、『映画 けいおん!』に近い。

(そういえば京アニの劇場版の特徴として、あまり新キャラクターが出てこないというのがある。TVアニメに登場した既存キャラだけで話を作るのは、なんらかのポリシーゆえだろうか)

劇場版を観て確信したのだけれど、七宮智音というのはこの作品における最重要キャラクターなんだな。七宮智音は『戀』から登場するキャラクターで、簡単に言うと勇太に惚れていて、六花の恋敵。「中二病」の殻の中に閉じこもることで勇太への恋を諦めるという、この作品内世界では正しいとされる結論を導いている。恋愛という意味では常に六花の少し先にいて、六花にとって「ひとつの回答」として道しるべのような立ち位置にいる。

「中二病」のまま勇太と一緒にいたいという六花に対し、七宮は自分を例に出して「六花もどちらかを選ばなきゃいけない」と結論を促す。ここ、七宮の説明を劇場版の中でもう少しちゃんとやれば名シーンになったかもしれないのだが、TVアニメを観ている前提だったのがすごくもったいない。もう一つ、ポジションが曖昧なためにどうにでも活用できるキャラクターがいて、今回も一番いいとことで肝になることを言うんだけど、便利に使われ過ぎてやしないか。ちなみに「駆け落ちしよう」と最初に言い出したのも、この人である。

まあともかく、今回も六花と勇太はほんの少しだけ前進して、良かった良かったで終わる。前に進んでくれるだけ、巷にあふれる現状維持アニメよりもずっといいんだけど、こんな牛歩戦術みたいなちまちまとした前進だけでは、そろそろ飽きてくる(この先にあるのって性行為だしなあ)。だったら七宮智音にもう少し救いを与えてくれたほうが。今回、劇場版を2回観たあとに改めて『戀』も観直したのだが、七宮が幸せになってほしいという気持ちでいっぱいになったし。やっぱり不憫すぎるよ、七宮。

 

 

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余談

本作は本編上映前に「デジカメ、スマホで写真撮影OK」という1分くらいの静止画がある(当記事の最初と最後の写真)。ただ、劇場による「スマホの電源はオフに」という案内の後にあるので、この存在を知らないと、先にスマホの電源を落としてしまうという事態になる。何とかならないかと思う。

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