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【邦画】『愛の病』--無理筋な話も「だって実話だから」という推進力のみに依存しているが・・・

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監督:吉田浩太/脚本:石川均
配給:AMGエンタテインメント/公開:2018年1月6日/上映時間:96分
出演:瀬戸さおり、岡山天音、八木将康、山田真歩、佐々木心音、藤田朋子

 

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57点
映画のレビューを書く際、真っ先に役者の演技を褒めるのは、他に褒めることの無かった場合だと個人的には考えている。それを踏まえて、本作『愛の病』は、役者の演技が格段に素晴らしい。特に主人公役の瀬戸さおりは、単に脱いでいるからというだけではなく、対峙する相手ごとに変化する感情を顔だけでなく全身で表現していて、刮目である。

さて、本作は冒頭で「実話を元にしています」的なテロップが出るところから始まる。ただ、他の映画で見るときよりも文字が大きく、強調を感じる。そして話自体は非常に淡々としている。そのうえ、首をひねる展開も多い。そのたびに「実話だから仕方ないか」と思い込むことで、なんとか話についていく。この話は役者の演技力と「だって実話なんだもん」という言い訳によって推進力を得ている。

夫からの暴力に耐えかねたエミコ(瀬戸さおり)は、幼き娘を抱えて実家に戻る。両親とともに住む兄夫婦は露骨に嫌がる態度を見せる。まずプロットとして不思議なのが、この兄夫婦が中盤以降、画面から一切姿を消すのだ。それまでの不穏な動きから、最後に大きな事件を仕掛けてくる存在と思いきや、最初からいなかったかのようになっている。

これ別にエミコの実家の人間関係はメインの話ではないのだが、それにしては父親の居場所のなさとか、母親がエミコと孫娘に抱く複雑な感情など、妙に作りこんでいる。その割には物語自体にはあまり絡んでこない。エミコの心象を補強するためのものでもなさそうだし。バランスがおかしい。ただし、エミコの幼い娘は、その無邪気さがどこまで天然なのかわからず、妙に怖くて良かった。

エミコが出会い系サイトのサクラとして働き始めたところで、話は一気に4年後に飛ぶ。実家を探し出した旦那が金を要求してきたのだ。そこで、出会い系で見つけた自動車整備工の真之助(岡山天音)をカモにしようと狙う。清楚なふりをして抱かれる寸前になったところで「実は暴力団組長の娘なの」と嘘をつく。そのあと、「小鉄」という名前の若頭を騙って電話をかけ、適当な理由をつけて金を振り込むように脅迫する。

誰もが気になるところなのだが、この「小鉄」の声がどう聞いても女の声なんである。いつも出会い系で喋っているエミコと同じ声だと、なぜ真之助は気づかないのか。真之助はエミコのためなら何でもする一種の変態として描かれているので、気づかないふりをしているとも見えるが。

その後、「娘をひき殺しそうになったトラックの運転手」であるアキラ(八木将康)に本気の恋をし、簡単に体を許すエミコ。しかしアキラには半身不随の姉・香澄(山田真歩)がおり、彼女の面倒を見ないといけないので結婚はできないと言う。とまあ、強引な展開が続くのだが、「実話だし」と自分を納得することでなんとかついていくことになる。

元の実話というのは2002年の「和歌山出会い系サイト強盗殺傷事件」のことである。あとでネットで調べてみたが、もう話が全然違うんである。「実話だから」と我慢してスルーした部分が、実は創作だったりしている。トラックで娘を轢きかけたりなんかしていない。しかも、あらすじだけ追ってみても、実話のほうが格段に面白い。エミコが騙る「小鉄」にアキラの姉が恋をしてしまうなんて、物語的に最高じゃないか。

さらに、前述の「電話の「小鉄」の声が明らかに女声」問題だが、実話では「オネエ口調のヤクザ」ということらしいのだ。だったら声が高くても解るし、映画で見せたらメッチャ面白くないか。別にちょっとした演出なだけなんだから、なぜこんな美味しいネタを採用しなかったのか。

『冷たい熱帯魚』も『全員死刑』も実話そのままじゃなくて改変しているけど、それは映画的にぶっ飛んだ表現によって事件の異常性をより際立たせたからである。エピソードを淡々と時系列で並べただけで、しかもその過半が創作だとすると、もはやこの映画は何をしたかったのかさえわからなくなってくるのだが。

 

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