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『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』ネタバレ感想レビュー--青春映画のヒロイン向きではない上白石萌音が中心となることで発生する生々しさ

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監督:川村泰祐/脚本:江頭美智留/原作:渡辺あゆ
配給:東映/上映時間:107分/公開:2019年3月21日
出演:上白石萌音、杉野遥亮、横浜流星、高月彩良、堀家一希、町田啓太、秋田汐梨、黒坂莉那、濱尾咲綺、宮原響

 

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55点
長く連載された少女漫画の中盤のエピソードを抜き出しているせいで、主人公の男女が同棲して付き合っているところからスタートするという、昨今のキラキラ映画では珍しいタイプの作品となっている。冒頭に、これまでのあらすじとして、2人の出会いから恋人になるまでのエピソードが長めのダイジェストで示される(ちなみに、後半の回想シーンでこのダイジェストがそのままもう一度流れるという斬新なことをしている)。一応、同じ監督による前作があるのだが、キャストが一新されていることもあって繋がっているわけではない。

高校生の西森葵(上白石萌音)は、学校で王子と呼ばれるイケメン・久我山柊聖(杉野遥亮)と小さなアパートの一室でラブラブ同棲生活を送っている。そこに転校生として突如現れた柊聖のいとこ・久我山玲苑(横浜流星)。アメリカ在住のはずだが、柊聖にハーバード大学を受験してもらってゆくゆくは父親の会社を継いでもらうよう説得しに、はるばる日本まで来たのだ。それだけのために、なぜ同じ学校に転校の手続きまでしているのかは、よく解らない。ともかく、柊聖が日本に留まるのは惚れた女の存在だと超推理をした玲苑は、彼女探しを始める。

柊聖が惚れるのは美人で巨乳の高スペックの女だと決めつける玲苑。目ぼしい女子生徒に手当たり次第に壁ドンしては柊聖の彼女か聞きまくる。その失礼な態度につっかかる葵とは険悪なムード。玲苑は、地味で貧乳(しかし普通にセクハラだよな)な葵が柊聖の彼女だとは夢にも思わず、スペックは70点の女(微妙に気を使っているような点数だが)だと目にもかけない。

えーと、失礼にならないような言い方をしないといけないのだけれど、上白石萌音って青春映画のヒロイン向きの人ではないよね。いや、良い意味で。『ちはやふる』でも『溺れるナイフ』でも、ヒロインの友人というポジションであれば絶大な存在感を示すことのできる人であるのだが、話の中心に置くには華が無い。いやだから、良い意味で。劇中ではことあるごとに、上白石萌音が地味だ何だと言われているのだけれど、妙に生々しいのである。この手のキラキラ映画でありがちな、旬の女優が配役されているんだから地味なわけないだろという違和感が、本作には無い。上白石萌音が地味と言われていれば、「うん、たしかに」と納得してしまう。

あのー、ディスってないですからね。この華の無さは女優・上白石萌音の持つ唯一無二の武器であるわけだから。この話、もちろん少女漫画らしい強引な展開なのだが、上白石萌音のおかげで妙なリアリティがある。柊聖が葵に惚れているのは、毎日の食事を作ってくれたり家事をしたりとマメに尽くしてくれるからである。昨今のフェミニズム言説からすると批判を浴びそうだが、イケてる女というスペックが無いならと、別のスペック(料理の上手さ、など)を武器にするというのは、まあ戦略として間違っていない。高校生が毎日手の込んだ食事を作るのは大変な労力だと思うが。勉強はちゃんとしているのだろうか。

さて、葵が柊聖の彼女ということは、あっさりと玲苑にバレる。で、葵が柊聖の彼女に相応しいスペック(さっきからこの言葉が何度も出ているけど、やたら玲苑が使うから真似してるだけです)かどうか見極めるために、玲苑も同じ部屋で暮らすと言い出し、謎の3人同居生活が始まる。こうして書き起こしてみると、すごい話だな。そこからはいろいろあって、玲苑が葵の勝気な内面に触れることで惹かれていき、その様子に柊聖が困惑していく。

でもこれ、柊聖と葵の恋心がどちらも強固なために、三角関係の中で心情が揺れ動くみたいな、ありがちの展開にならないんだよね。最初っから恋人関係の2人が、互いへの思いをずっと保ったままなのは明らかなので、まったくハラハラしない。柊聖がアメリカに行く行かないという話はあるのだが、これも葵を守れる男になるためにとかなんとか、謎の動機だったりするし。ラブラブな男女のもとに些細なトラブルが発生したけれど2人の愛に影響はありませんでした、っていう話。

ラスト、柊聖と葵の関係が学校中にバレて、全校生徒が取り囲んで注目する中で2人がキスして終わる(そういえば、この2人って劇中で何度もキスしている。これもキラキラ映画では珍しい)。華が無いため本来はヒロイン向きではない上白石萌音が世界の中心に立つことで、なにがしかの勇気を貰えた気にはなる。ただ、周りから拍手されているのは「学校イチのイケメンの彼女だから」なんだけどね。付き合う男でスペックが決まるのか。それもまたリアルか。あと、葵の親友の女子生徒の人、つい最近どこかで見たと思っていたが「埼玉なんて言っているだけで口が埼玉になるわ」の人だった。

 

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