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【邦画】『blank13』レビュー--斎藤工という役者監督らしい巧みな演出力に驚くと同時に、モヤモヤする消化不良な感じもする

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監督:齊藤工/脚本:西条みつとし/原作:はしもとこうじ
配給:クロックワークス/公開:2018年2月3日/上映時間:70分
出演:高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、佐藤二朗、リリー・フランキー

 

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62点
公開してからずっとシネマート新宿で1日1回だけの上映だったため、すぐに席が予約で埋まってしまい、なかなか観られずにいた。公開から3週目になって回数も増え、渋谷や池袋でも上映されるようになったため、やっと観ることができた。

俳優の斎藤工が、「齊藤工」名義で長編監督デビューした作品。何らかの映画愛を持っている人なのは解っていたが、きっちりと仕上げている。メインどころは実績のある人を揃えているというのもあるが、役者の使い方が巧いのはさすがである。

この作品ははっきりと前半と後半に分かれていて、ちょうどその間にタイトルクレジットが入る。借金まみれのまま蒸発した父親(リリー・フランキー)の葬儀会場が舞台。前半のメインは回想シーンで、借金取りがドアをガンガン叩いたり、母親(神野三鈴)が夜の仕事をしたりといった辛い生活を、兄弟2人(高橋一生、斎藤工)の視点を主にして描く。

ここ、困窮シーンとしてはステレオタイプであるし、構造的にはダレても「それが狙いなんです」と言い訳できる部分ではあるのだが、きっちりと退屈させずに見せてくるのは、失礼ながら意外であった。ちゃんと車にも撥ねられていたし、そのあとの怪我の様子も生々しく痛々しかった。人間の顔と肉体で場を持たせていたのは、役者監督としての意地ではなかったか。

気になるのは後半で、葬儀会場に出席した人たちに思い出話をしてもらううちに父親がいなくなっていた13年間の片鱗が判明してくる、という手法なのだが、どうも消化不良である。こっちが勝手に大きなカタルシスを期待していたからなのは承知なのだが、あの思わせぶりな予告編にも責任はある。

本当に、片鱗しか解らないのだ。この死んだ父親というのは、息子視点からすれば極悪人で恨みの対象であったわけで、それなら確かに困っている人に金を貸した程度の「ちょっと良い話」でも心を揺さぶられるのは解かる。でも観ている側からすればそこまで息子と同じ気持ちになっているわけではないので、父親に対するイメージは、さして変わらない。清濁併せ持つのが人間だし、そんなもんかな、という程度だ。

後半のモヤモヤする消化不良な感じは狙いであろう。お節介なねちっこさが売りの佐藤二朗に回しをやらせているのも、葬式らしからぬ格好で来ている異様な雰囲気を持つ人々のちょっとやり過ぎ感も、野生爆弾・くっきーに焼香だけさせてさせて帰らせる無意味さも、同じように狙いであろう。後半は芸人も多く出ているのだが、やはり役者監督らしく見た目からして癖のある役者たちの持ち味を映画の空気感とマッチさせるのは巧い。この変な感じがやりたかったのかなあ、とも思う。

だが、後半をこうするのなら、前半においてもっと息子の気持ちを観客のそれと同化させなくてはいけなかったのではないか。というのはひとつの手段だが、そうでなくとも、何かしらの強固な共通認識を観客の側に持たせてくれないと、後半のモヤモヤ感だけで何かをひっくり返すまでにはいかないのでは。演出は良かったけれど、内容としては父親がダメなオッサンでしたって程度だったからねえ、前半。

まあでも、齊藤工監督の才覚はハッキリ証明されたので、今後が期待できるとは思います。あと、冒頭の火葬という言葉の意味を縦書きのテロップで長めに説明するところ。あれは何らかの皮肉なのか、それとも単に変わったことがしたかっただけなのか。いろいろ判断に困るところが多い作品ではあった。あ、そのモヤモヤすら狙いなのかな。だったら上出来。

 

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