ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『雪子さんの足音』ネタバレ感想レビュー--老女と地味な女が若い男を篭絡しようと食事を与え続ける行為が怖い怖い

f:id:yagan:20190519152247p:plain
監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/原作:木村紅美

配給:旦々舎/上映時間:112分/公開:2019年5月18日
出演:吉行和子、菜葉菜、寛一郎、大方斐紗子、野村万蔵、宝井誠明、佐藤浩市、山崎ハコ、石崎なつみ、村上由規乃、結城貴史、贈人、木口健太、辛島菜摘 

 

スポンサードリンク
 

 

54点
主人公は現在サラリーマンの遊佐薫(寛一郎)。出張先の喫茶店で朝刊に目を落とすと、学生時代の寮の大家・川島雪子(吉行和子)が自宅で孤独死していたという記事が。出張先から近いので寮を見に行きたい、ついては帰りの新幹線を遅らせると同行の同僚に伝えると、同僚は「それじゃあ」と席を立つ。目の前の朝食に一切手を付けずに。

そこから遊佐による学生時代の回想が始まる。深夜に寮の2階自室で寝ていると、下から雪子とその息子の言い争う声が響く。それからしばらくして、雪子の息子は死ぬが、その友人の佐藤浩市が借金を返してほしいと尋ねてくる。500万円のところを250万円でいい(なんじゃそりゃ)と迫るが、急に謎の頭痛に襲われ、退散する。謎の頭痛って『映画 としまえん』と同じだが、流行っているのか。さすが、三流ではなく一流役者の佐藤浩市は、こんなワケのわからないシーンも迫真の演技であった。でも、この霊的な仕業としか思えない謎の頭痛はこれっきりで、後に触れられることもない。怖い。

メインの話は遊佐が3年次になってから。ある日、遊佐は雪子から誘われ、隣の部屋に住むOL・小野田香織(菜葉菜)と3人で近所のカフェに昼食を食べに行く。カレーを食べながら「小説を書いていて、新人賞に応募しようと思っている」と言う遊佐に、それまでとっつきにくい感じだった小野田が急に目を潤ませて羨望の眼差しで見つめてくる。雪子も異様な関心を示す。ちなみに雪子と小野田は、カレーを一口も食べていない。怖い。

そこから、雪子は頻繁に遊佐を自宅(寮の1階)に呼んでは食事を振舞い、小野田はセクシーな服装で誘惑してきたりする。彼女らが遊佐に執着する理由は小説を書いているという一点のみ。そこまで人を惹きつけるものなのか、小説家って。そして、この映画、やたらと遊佐が何かを食べさせられる。遊佐のために用意される食事は手が込んでいるし、明らかに量が多い。逆に、雪子と小野田が食べる画が全然ない。うなぎ屋に連れていかれたときなんて、遊佐の前にかば焼きが5つも並んでいた。怖い怖い。

遊佐の食事シーンの怖さは、意図的な演出である。雪子と小野田が大きな金魚に餌を与えるイメージショット(遊佐の妄想かもしれないが)が何度か挟まる。このシーンによって、2人の遊佐に対する何かしらの企みが暗喩されている。それより何より、薄暗い部屋の中でニヤニヤ笑いながら金魚に餌を与え続けるシーンが、純粋に怖い。

実は雪子以上に小野田のほうが精神的に壊れていて、2人で雪子の養子になって遺産を貰おうなどと言ってきたり、さらには「自分がお金を払ってでもいいから」と身体を差し出そうとする。遊佐宛の手紙は勝手に処分するし、部屋の中は切り刻まれた人形が散らばっているなど、菜葉菜による艶めかしい演技も含めて記号的な「壊れた人」なのだが、この辺りは順当なホラーの手法に則っていて、作り手の意図通りに怖い。

結局、食事を与えられ続けて気味が悪くなった遊佐は寮を出ていく。老女と地味な女が小説家志望の若い男を篭絡して囲おうとする話なんだけど、たいした策略もなく食事を与え続けるだけってのが、ただただ怖い。退去の時に雪子は遊佐に「私が死んだ時、まだ奇麗なうちに下宿人に見つけてもらえたら、という魂胆があったの」とか言っていたし。怖い怖い怖い。

さて、サラリーマンの遊佐が電車の中でTwitterを見ているだけの現代パートだが、最後にこれが20年後だと明かされる。ってことは現代の遊佐は40歳を過ぎているってこと? 本編の大学生と同じく寛一郎が演じているのだが、とても40過ぎには見えない。せめて白髪を混じらせるとか皺を描くとかしてほしい。そしてラストにすれ違う20年後の小野田の姿が突拍子も無さ過ぎて、怖い怖い怖い怖い…

 

スポンサードリンク