ヤガンEX

映画とか漫画とか似顔絵とか

【邦画】『野球部に花束を』感想レビュー--「あるある」って、ただありがちなことを言うだけじゃ"芸"にはならないのだな


監督&脚本:飯塚健/原作:クロマツテツロウ
配給:日活/上映時間:99分/公開:2022年8月11日
出演:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、三浦健人、里崎智也、小沢仁志、高嶋政宏

 

注意:念のため、未見の方はネタバレにご注意ください。ネタバレどうこうって作品でもないですが。

 

スポンサードリンク
 

 

映画『野球部に花束を』だが、物語と呼べるほどの展開は存在しない。公立高校にしてはそこそこの実力の野球部を舞台に、1年生の入学から春の地方予選(3回戦負け)、3年生の引退、秋の大会、そして翌年の新1年生の入部という、至極当たり前の経過に沿って流れるのみで、脚本術における筋なんてものは皆無。劇映画なのかどうかすら悩むほど。強いてカテゴライズすれば日常系かな。『らき☆すた』と同じジャンルかもしれない。

 

そんな野球部の日常の中で、「野球部あるある」が披露される。その都度ワイプで里崎智也(元千葉ロッテの名捕手)が登場して「怖い指導者ほど、質問形式を好む」みたいに「野球部あるある」を読み上げるのだ。里崎の役名は「野球部あるある解説者」なんだけど、別に「あるある」に付随する情報を解説するわけではなく、ただ読み上げるだけ。ワイプの出し方は徐々に凝り出してきてバリエーションが増えていくんだけど、だからなんだとしか。

「野球部あるある」の内容も、「怖い指導者ほど、質問形式を好む」「チームには1人、左打ちに変えられる奴がいる」など、笑えるわけでも無ければ新しい知見に感心するわけでもなく、「まあ、そうだろうね」程度の感想で終わるものばかり。TVのトークバラエティで歴戦の芸人たちが披露する「あるある」と比べたら、クオリティは雲泥の差だ。「あるある」って、ただありがちなことをそのまま言うだけじゃ"芸"にならないのだな。笑いでも知見でもいいが、聞き手を感心させる何かがあって、初めて「あるある」は「あるある」足りえるのだろう。

あと期待外れ(まあ、こっちが勝手に期待していただけなのだが)だったのが、本作の中での野球部の理不尽って、現在も社会問題化しているブラック部活の闇を抉るには到底及んでいないのね。先輩は大声で怒鳴るけど無理してやっているのが伝わるし、監督を演じている高嶋政宏は堂に入ったマンガ的な誇張演技により「ヤバい奴」感は出ているものの、意外と筋は通っているし部員への気配りも怠っていないマトモな人だ。なんやかんやで一年生にとっても部活生活は楽しそうだし、全体的に野球部を汚してはいけないという作り手の愛が詰まっている。まあ、そういう映画でもいいんだけど。

そういうこともあり、本作の中で当然のこととしてスルーされている部分に、むしろブラック部活の闇を感じるのである。テスト期間なのに上級生の朝練に付き合わされている一年がテストで寝てしまい酷い点数を取るとか、職員室での監督から部員への暴力に他の教員が見てみぬふりをするとか。これらの部活動における構造的な問題が作中では当然のものとして受け入れられている(「あるある」とすらされていない)ほうに、根深い闇が垣間見える。

最後に、もうひとつ。本作の重要な要素として、1年生の主観では3年生が小沢仁志に見えるというものがある(実際に小沢仁志が演じ、その時だけ画面がフィルムっぽくなる)。映画における主観表現の究極の形をやってのけてくれるのかと少しの期待もあったが、思い付きのレベルで終わっていた。何より、切り替わるタイミングが変で統一されていないのがなあ。「小沢仁志に見える」ってのは単なる導入で、本当に知りたいのはその先なのに。

主観表現と言えば、意図的に高校生に見えないキャスティングをしているのだが、こちらに関しても処理できていなかった。1年生として登場する駒木根隆介は実年齢40歳で、主人公から「見た目おじさんじゃん」とツッコミが入る。でもそのすぐ後に同じく1年生として登場する市川知宏は実年齢30歳で、やっぱりどう見ても高校生ではないのだが、こちらにはツッコミは入らない。3年生も見た目おじさんの配役で、もはや小沢仁志に切り替える必要もないレベルの貫禄なのだが、だったら駒木根隆介にだけ「おじさんじゃん」とツッコミを入れてしまうのは世界観を壊しているのである。自分のやっていることに対して深く考えることができないのかも。それはまあ、いつもの飯塚健監督ではあるのだけれど。

-----

 

【お知らせ】

邦画レビュー本「邦画の値打ち」シリーズなどの同人誌を通販しています。

yagan.base.shop

-----

 

スポンサードリンク