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【邦画】『バイオレンスアクション』感想レビュー--不安定なリアリティラインは、むしろ今の世界では真っ当なリアルなのかもしれない


監督:瑠東東一郎/脚本:江良至 瑠東東一郎/原作:浅井蓮次 沢田新
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/上映時間:111分/公開:2022年8月19日
出演:橋本環奈、杉野遥亮、鈴鹿央士、馬場ふみか、森崎ウィン、大東駿介、太田夢莉、猪塚健太、箭内夢菜、兵動大樹、くっきー!、佐藤二朗、城田優、高橋克典、岡村隆史

 

注意:たいしてストーリーには触れていませんが、念のため未見の方はネタバレにご注意ください。

 

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映画『バイオレンスアクション』を観ていて、とにかく気になるのが、いわゆるリアリティラインの不安定さである。屈強な男たちに囲まれた橋本環奈がすばしっこく飛び回り華麗な銃捌きで翻弄するようなガール・アクションなのだが、その肝心のアクション部分でリアリティラインが最も不安定になってしまっている。

カット割りが多く、しかもカットが入ると人物の立ち位置が変わる(つまり、カットの繋ぎ目で時間が経過している)のは引っかかるものの、基本的には役者の身体性に寄与した迫力のあるアクションが繰り広げられる。橋本環奈を始め、城田優岡村隆史などメインには動ける人を揃えているのもあり、クオリティは悪くない。だが、そんな一応はリアルに構築されたアクションの真っ最中に、マンガ的な誇張表現が唐突に挿入されるのである。

たとえば、橋本環奈が銃弾を避ける際に、昔の忍者漫画のように非現実的な瞬間移動をしたりする。消えたあとには数本の白い横線が残るというおまけ付きだ。あるいは、城田優が連続パンチを繰り出すと、『北斗の拳』の「アタタタター!」よろしく、拳の無数の残像が現れる。本作はソニーグループが開発したボリュメトリックキャプチャ技術という長い名前のCG処理を採用しているのだが、パンフレットによると「アタタタター!」のために5種類の映像を合成して重ね合わせているのである。こうした合成は非常に大変らしいのだが、労力の使いどころが間違っているような。

ボリュなんとか技術は、それこそ『アベンジャーズ』のようなCG必須の異能力バトルでは真価を発揮するだろうが、設定上は普通の人間同士のアクションに用いても場違いとしか捉えられない。昨今の邦画では岡田准一伊澤沙織清野菜名などが鍛え抜かれた生身の身体性で華麗なアクションを披露しており、アクション面におけるハリウッドとの差別化が成功しそうな重要な時期(まあ、中国やタイにやっと追いつきそうな時期、とも言い換えられるが)なのに、CG処理でマンガ的な虚構性を加えてリアリティラインを不安定にしたアクション映画が公開されるのは、せっかくの盛り上がりに水を差してしまうのではないか。

※ もうひとつアクションシーンで気になる点が、どうにも勝敗に論理的な理屈が感じられない。つまり、アクションの中に"展開"が存在しないのである。これは先述した「カットの合間に時間が経過している」とも関係しているのだが。橋本環奈の腹に釘が3本ほど刺さっただけで気を失い、冷酷無比な殺し屋のはずの城田優が死んだと勘違いして息の根も止めずにその場を立ち去り、その後に「(釘が刺さるのは)慣れたから」って橋本環奈が完全復活するとか、どういう理屈なんだろう。まあ、ここに関しては原作準拠なんだけど。

さて、リアリティラインの不安定さは、アクションシーン単体にのみならず、作品全体にも及んでいる。これ一応、BGMや橋本環奈のキュートなファッションからするに、ポップに色塗られた虚構的な世界観のつもりだと思うのだが、生々しいリアルが唐突に挿入されるのである(アクションシーンとは正反対で、虚構の中に現実が放り込まれる)。通りすがりの一般人が無慈悲に殺されるとか、中盤で登場する女スナイパーの重過ぎる回想とか。これらはメインの物語とは基本的に無関係で、あくまで映画の装飾としての要素のため、その不自然さが際立つ。

ここまで触れてこなかったストーリーに関しても、リアリティラインを不安定にするような問題点がある。原作漫画は各話ごとに独立したエピソード形式なのだが、その各話が意外と練られている。いきなりヤマ場から始めたりなど、お約束やマンネリを構成によって避けようとしているのは素直に巧い。

映画では、原作から目立つ要素を部分的にいくつも抜き出して、ヤクザの抗争というひとつの物語の中に嵌め込んでいる。連載物の原作を改めて一本の作品にするにはベストな方法だし、印象的なセリフを別のキャラに割り当てるなどの思い切りの良い改変は、意外にも成功している(ここで変に原作に拘って破綻する邦画が多いのに)。ただ、割とシリアスなヤクザ抗争の描写と、特に岡村隆史の戯画的なキャラクター造形に代表されるマンガ的なコメディ描写とが並立しているために、やはりリアリティラインは大きく揺さぶられる。なお、てっきりコメディ担当かと誰もが予想していた佐藤二朗は、意外にもシリアスな狂気を纏っている側であった。

以上に述べたように不安定なリアリティラインを内包する本作の中で、ずっと立ち位置が定まっていなかったのが主演の橋本環奈ではなかったか。橋本環奈、コメディもシリアスもそこそここなせるから余計に。おそらく橋本環奈の演じる殺し屋は、ありがちなイカれたキャラクターのはずだが、どうも作品の世界観が不安定なのでポジションを確立できずどっちつかずのままだ。そのため、キャラクターを魅力として昇華させるところまで至っておらず、非常に勿体ない。

とまあ文句が強めになってしまったが、本作における不安定なリアリティラインって、むしろ現代的なのかなとも感じる。なぜなら、現実の世界においては一定したリアリティラインの存在そのものがまやかしであると、みんな気づき始めているのだから。世界屈指の軍事大国が"弱小の属国"相手に苦戦し、感染病が蔓延し救急車が足りなくなっても観光地は黒山の人だかりで、国政を裏で操るカルト宗教のとばっちりで元総理大臣が凶弾に倒れる。それらが事実かどうかはどうでもよく、現実の中にマンガ的な虚構が入り混じり混沌としている世界が形成されているように思えてしまう現状が重要な問題だ。リアリティラインの不安定な映画『バイオレンスアクション』は、そんな今現在の世界を正しく描写しているのかもしれない。
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