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【邦画】『検察側の罪人』ネタバレ感想レビュー--木村拓哉、二宮和也のあらゆる意味でのパワーが、原田眞人監督の暴走を抑えていた

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監督&脚本:原田眞人/原作:雫井修介
配給:東宝/公開:2018年8月24日/上映時間:123分
出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、酒向芳、音尾琢真、山崎努、松重豊

 

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63点
原田眞人監督については、個人的には『魍魎の匣』をあんなことにしてしまった一点だけで許されざる罪人として認識している。その件は差し置いても、そんなに作品を観ているわけではないが、毎度のようにおかしな脚本、おかしな演出、おかしな編集が目につくし、そのおかしさの方向性が昔から一貫していることから、もはや修正することのできない悪癖を持っている人と捉えている。

検察側の罪人 上 (文春文庫)

検察側の罪人 上 (文春文庫)

 

 

で、本作『検察側の罪人』だが、そんな原田監督の悪癖があまり目立たず、新鮮であった。いや、いつもの原田監督らしさも残っているのだが。特に編集は相変わらずで、広い空間をハイスピードで動くカメラワークを途中でぶった切って顔のアップに切り替えるとか、どういう狙いなのか。ちなみに編集は、いつもと同じく原田監督の息子が担当している。

想像するに、主演の役者たちのパワー(あらゆる意味で)が、監督の暴走を抑えていたのではないか。木村拓哉は、たとえば冒頭のシーンで急に大声を上げるところ(名場面!)は当日のアドリブだったりと、現場では常に自分のアイデアを提案していたという。インタビューを読む限りでは、小道具を急遽変更させるなど、完全に現場の主導権を握っていたかと思われる。平成の大スターに対し、原田監督といえでも何も言えなかったのだろうか。というのは邪推だが、ともかく従来のアイドル性に貫禄を加えた木村拓哉が中心でどっしり構えることで、映画全体が締まっている。

一方の二宮和也は、何があっても自分のスタイルを崩さないタイプの役者である。基本的には、誰と対峙しようがのらりくらりと躱して、自己を保持する。完璧な受け身のできる人なので、対する役者も全力でぶつかることができる。吉高由里子も、それに近い感じか。彼女の場合は、自分から殴りかかってもくるけど(二宮と吉高のツーショットのシーンは、常に二宮が受け身だった)。

というわけで、特に前半は役者の演技力と存在感で重厚に保たれていたのだが、後半になると少し崩れだす。大倉孝二や八嶋智人といった小劇場出身でオーバーアクションを得意とし、かつ監督の意向をそのまま受け入れるタイプの役者が出てきてからが、その傾向が強い。同時に、それまで舞台背景であった巨大な陰謀の件が前面に出てくることで、原田監督の悪癖が目立ち始める。

本作のテーマは単純に言えば、法を逸脱してでも個人が私怨によって罪人を罰してもいいのか、ということである。そこに、インパール作戦の生き残りの子孫による繋がりだとか、戦争特需を引き起こそうという国家レベルの陰謀(明らかに現政権への批判である)といった件が、当初は背景として加わってくる。これらは原作には無く、原田監督が付け加えた要素だ。過激な左翼思想による政治批判も取り入れたって構わないのだが(『万引き家族』だって、その側面はあるし)、問題はそれらが本筋のテーマと無関係なことだろう。まだインパールは、人物の行動原理のためだという説明がつくかもしれないが、政権批判に関してはメインの物語からすると邪魔でしかない。

とは言っても、個人の私的な復讐と国家レベルの陰謀を同列に扱わなくてはいけないというちぐはぐさが、日本社会の歪みを表していると捉えることができるかもしれない。思えば美術に関しても、妙に現実離れした異空間が唐突に登場したりする。倉庫みたいなだだっ広いところにある弁護士事務所とか。出所パーティーしている場所とか(あれはどこの設定なんだ?)。登場人物で言えば、芦名星のありえなさとか。このような、現実と虚構のちぐはぐな組み合わせは、黒沢清監督作品に通じるところもある。

ただ、黒沢清作品における世界の向こう側まで飛ばされるような感覚と比べると、本作はむしろこじんまりとしている。というのも、個人の話であったメインストーリーに対しては大きすぎた国家レベルの陰謀だが、世界観を大きくしようとすると、逆に日本社会という小さすぎる空間の内側に留めようと働いてくるからである。あと、ラストの二宮和也の雄叫びだが、あれで全てを誤魔化すのは単純にダサい気がする。ニノ本人はインタビューから察するに、あのラストを納得していないようだし。

 

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